ゑり善 家族で浴衣ものがたり その2
~前回のあらすじ~
ゑり善のInstagramに投稿されていた女の子用の浴衣のコーディネートを見て、自身の娘 椎香の浴衣を検討し始めた京子。主人の陽太を説得し、今年の祇園祭で椎香の浴衣デビューが決定した。家族3人で見に行ったゑり善にて、陽太も図らずも好みの浴衣に巡り合った様子である。

陽太が男性用浴衣を見始めたとき、畳に移動した京子と椎香。店員が畳の上に反物を広げていくと、椎香の目はそちらに向いて動かなくなった。好奇心旺盛な椎香にはくるくると回る生地、それとともに現れる柄が新鮮に映ったのだろう。
「お子様用の浴衣はお顔映りというよりお好みによるところが大きいですね。お子様用ははっきりとしたお色目でパッと見てかわいい!というものが多いですよ。」
「どれもかわいい!確かに小さいころだから似合う色ってありますよね。しいちゃん、どれがいい?」
京子が椎香の肩を抱いて顔を覗き込みながら優しく話しかける。
「むらさき!」
椎香は柄に使われていた紫色の部分を元気よく指さす。彼女に一番近いところに置いてある貝殻柄の反物だ。
「今日のおようふくの色といっしょだね!むらさき好きなの?」
店員も椎香に元気に話しかける。
「うん!」
嬉しそうな椎香に京子の頬も緩み、店員へ補足のように話す。
「アイドルの…ええっとグループ名が思い出せませんが…その紫色の子に憧れているみたいなんです。」
「素敵ですね!浴衣をお召しになると特別感を感じていただける方も多いので、お嬢様もアイドルになれちゃいますね。」
「しいかもアイドルなれる?」
はしゃぎだす椎香である。
「アイドルの衣装には帯も必要ですよ~。残念ながら紫色はないのですが、しいかちゃん、どれがいい?」
店員が兵児帯を見せていく。
「むらさき!」
ない色を言う椎香を京子がなだめる。
「椎香、紫はないんだって。ピンクとかどう?これもかわいくない?」
反物の上にピンクの帯を乗せてみる。
「むらさき~」
と椎香も譲らないので、反物と帯を実際にあてて見てもらうことにした。

「では椎香ちゃん、変身しましょ~」
椎香を楽しませようとする店員の声掛けに応じ、鏡に向かい反物をあてたところで陽太が合流する。陽太の接客をしていた店員が男物の浴衣と帯を持っているので好みのものに出会ったようである。夫も浴衣を着てくれたら…と期待していた京子は嬉しくなった。
「おっ椎香かわいいじゃん。」
「しいかアイドルなれる?」
「おおなれるなれる。あっ帯もいいね。」
店員がふたりがかりで左右から帯を持って反物の上から合わせたところを見て、陽太はさらに椎香を褒める。父の言葉に椎香はすっかり満足したようである。
「椎香、パパにも褒められてよかったね~。本当にかわいい。椎香の浴衣はこれにしましょう!陽太さんは?どんなものにしたの?」
京子の質問に、陽太の選んだ品物を持っていた店員が京子と椎香に向けて反物と帯を見せる。
「かにさん!」
「ほんとだ、かにさんだ。椎香も貝殻の柄だし、海のもので同じだね。」
「さすが親子ですね!」
椎香と京子と店員がテンポよく反応する。
「ね、あててみて。」
京子の言葉に陽太も畳に上がり、反物と帯をあてて顔映りを確認する。

「わあ、いいじゃない…!浴衣の色がちょっと落ち着いている気もするけど陽太さんらしいチョイスだし帯の色も明るくて素敵。」
「お顔も沈んでしまうというわけではなく馴染むお色なのかなと思います。」
京子と店員の言葉を受けて陽太もうなずく。
「確かにそんなに抵抗なく着られそうな感じがします。じゃあ僕と娘と、お願いします。」
反物をあてている間に他の店員が用意していた、そのほか着付けに必要なものについて、店員が説明をする。
「お子様用の浴衣は結びやすいように紐をつけてお仕立てさせていただきますので、腰ひもは必要ございません。下駄はこちらなど浴衣に合うと思うのですがいかがでしょうか。」
「わあ!小さくてかわいい!!でも下駄を履いていると足痛くなるかな…?」
「せっかくなら揃えておいたら?当日嫌がってもいいようにサンダルも用意しておこう。」
最初は渋っていた陽太もお買い物モードに入っているようである。「着物」が彼の探求分野に入ったようだ。

「男性用の浴衣には、下に肌着とステテコをお召しいただきます。襟から見えないようにUネックのものをお選びいただけましたら、お洋服売り場で売っているものをお使いになられる方もいらっしゃいます。後は帯を結ぶ前に腰ひもで結んでいただきまして、衿もはだけないように衿止めというピンを使われると安心ではないかと思います。それから下駄とバッグですね。男性用のバッグは信玄袋という形で、こちらのお色味などいかがでしょうか。下駄は…」
「あっ、下駄は実家に父が全然使っていないものがあるみたいなのでそれを使おうと思います。身長同じぐらいだからサイズも大丈夫だと思うし。肌着類もそれならこちらで用意しようかな。バッグと腰ひもと、衿止め?をお願いします。」
本当に必要なものをしっかりと選びながらお買い物をすすめる陽太である。
「承知いたしました。それではご明細をご用意いたしますね。その間に寸法を測らせていただきたいのですが、おそらくお背の高いご主人様の裄…腕の長さをきっちり出そうとすると生地の巾だけでは長さが足りず、生地を継いで長さを出すハギが必要になると思います。浴衣でしたら普段で気軽にお召しいただくものですので多少短めでも問題ございません。ハギを入れると別途お仕立て代もかかりますし、生地巾いっぱいでお仕立てさせていただく形でよろしいでしょうか。」
抑えられるところは抑えたいという意向を汲んでもらったようで、店員のすすめ通りに仕立ててもらうことにした。
男性とお子様用の寸法は見本を羽織って測るらしい。
椎香と陽太は店員の持ってきた寸法見本にそれぞれ袖を通す。



裄、対丈(首の後ろからくるぶしまで)を実際の寸法、寸法見本との長さの差とそれぞれ測る。そのほか身長を確認し、陽太は腰回りとお腹回りを、椎香はお腹回りを測る。着物の採寸では一周の長さが一番大きいところの寸法が大事なようである。
「角帯の位置ですが、前はお腹の下に通します。結び目は前で結んでから後ろに回したら良いのですが、前下がりの見た目になるように後ろは少し上げてお尻の上のあたりに結び目が来るようにするとよいですよ。帯を安定させるためにはお腹まわりに少し厚みがあるほうが締めやすいこともございます。お客様のご体型でしたら、お腹のあたりにタオルを入れて補正をしていただくぐらいのほうがきれいに形も出ると思います。」
京子と椎香のほうで接客をしていた中年男性店員が陽太に帯結びのアドバイスをする。
「日本人の体型に合わせて見栄えがするようになっているんですね…着物って奥深いですね」
しみじみと感心する様子の陽太。着物への興味が増し、はまっていきそうな予感がする。
用意された明細を確認しお支払いを済ませると、陽太と椎香の採寸中に京子が書いていた鶴崎家の連絡先を店員が確認する。
「それではお仕立て上がりましたら奥様にご連絡させていただきます。」
「よろしくお願いします。私も、今年の祇園祭も去年仕立てていただいた浴衣を着ようと思います。主人と娘のも楽しみに待っていますね。」
「ありがとうございます!ご家族皆様でのお出かけに浴衣をお考えいただき嬉しい限りです。お仕立て上がりまで今しばらくお待ちくださいませ。」
出口に向かう間、ありがとうございましたと店頭にいる店員が声をかけるなか、人見知りしない椎香は元気よく手を振る。
昨年ご自身の浴衣を誂えてもらった経験からご家族にもお考えくださった奥様。予想外に良い反物とお出会いくださったご主人様。何事にも興味を持ちかわいらしいお嬢様。
店員はご縁のつながりに感謝して鶴崎家一行の姿が見えなくなるまで見送った。
~完~
以上、ゑり善 家族で浴衣ものがたりでございました。
陽太さんも椎香ちゃんも、お好みにもお顔映りにも合う浴衣とお出会いいただき…京子さんのご希望通り祇園祭の日はご家族皆様で浴衣をお楽しみいただけるようで、こちらとしても嬉しく思います。
椎香ちゃん、当日も喜んでお召しくださるといいな…とか、陽太さん、もともとはご自身には浴衣をお考えでなかったみたいですが、お家に下駄があることをご存知だったということはご来店前に浴衣について調べたり、ご実家にあるものを確認していたりしたのかな…とか思います。陽太さんもご家族でのお買い物やお出かけを密かに楽しみにしていたのかもしれませんね。
浴衣に限らずお着物にはお求めになったときやお召しになったときの思い出が強く残るように思います。
簡単なお買い物でないからこそ悩み、そのときのことが印象に残ったり、お召しになったときの情景や関わった人の顔が浮かんだり…
大切な誰かを、大切な物事を思い出すきっかけになれるとは、「お召し物」を超えた魅力がお着物にはあるとひしひしと感じます。
私自身もゑり善に入社後、初めて自分に誂えた浴衣は今でも大切にしています。
大切すぎて、白地の綿コーマの生地に染料が滲んで着られなくなったらと思うと怖く、自分での洗濯もためらっておりました…お手入れが簡単というのが浴衣の、綿の生地のメリットだというのに…!
先日ついにお洗濯してみたら、染料滲みもほとんどなかったので喉元過ぎればなんとやら、こんなに簡単に洗えるのか!と感動いたしました。
昨年の着用後、今回は自分でお洗濯しようと決めたまま勇気が出ず放置していたら、衿や帯を締めるあたりに汗じみが黄色く出てまいりましたので、ご着用後はお早めにお手入れをすることをおすすめいたします。
以前のブログでご紹介した『浴衣のお洗濯』の方法に倣ったら成功いたしました。
私の場合は過去2回ほどクリーニングに出していたので染料滲みも少なく済んだのかもしれません。ブログ内でご紹介している色落ちチェックも併せてご参照くださいませ。
ちなみに衿の汗じみは、先輩からも「こするのだけは絶対ダメ!」とアドバイスをもらっていたので洗剤をつけた歯ブラシでやさしく撫でるように予洗いしてから洗濯機に入れたら目立たなくなりました。
その他、取扱商品ページでも浴衣を一部ご紹介しております。ブログ内カテゴリ『浴衣の知識』でも様々な角度から浴衣についてお話させていただいておりますので、ぜひそちらもご覧くださいませ。
今回も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
本店営業・久保田真帆
![京ごふく ゑり善[創業天正12年]](https://www.erizen.co.jp/wordpress/wp-content/themes/erizen/img/common/logo_pc.png)

