【引き箔】西陣織に生きる“和紙”と“漆”と“箔”の良い加減 ~きものSalon『京のほんまもん』に添えて~
いつもゑり善のブログ「きものを愉しむ」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。ゑり善の主人の亀井彬です。
一雨ごとに季節が移ろう三月。曇り空が続く日々のなかでも、ふと差し込む春の陽ざしに、やわらかな温かさを感じる頃となりました。
さて、毎年、3月と9月に世界文化社さんから発刊されるきものSalon。
不思議なご縁から、ものづくりのこだわりを伝えていきたい!という想いを応援いただき、「京のほんまもん」と題して、これまで6回に渡り、作り手の皆様の技を追いかけております。
2026年春夏号は第7回目として、西陣織の技法の一つ「引き箔」に焦点をあててご紹介させていただくことになりました。
ご協力くださったのは、長らくお世話になっている洛風林さんの堀江麗子さんと、勝山織物の五代目勝山健史さん。
今日のブログではその取材の補足や裏話についてご紹介させていただきます。

■ 品格を生む、控えめな光沢の技法
きものの仕事に携わるようになり、西陣織のものづくりに出会ったときに、勝山健史さんからこの引き箔という技法を丁寧に教えてもらいました。
「和紙に箔をはり、細かく裁断をして、帯に織り込む」
ぎらりと主張するのではなく、重なり合う糸の奥からにじみ出るような、箔の独特の光沢に心打たれたことを鮮明に記憶しています。
一方で失われつつある技法であるとも伺いました。原料である箔は様々な要因から手に入りにくくなり、箔屋さんや裁断屋さんも件数を減らしている…
そのような状況を勝山さんからも伺っておりましたので、今回はきものSalonさんのお力も借りて、取材と撮影をさせていただくことにいたしました。
取材にお伺いした齋藤商店の齋藤隆夫さんのご案内のもと、引き箔の「箔」づくりを拝見させていただきました。
工程としては、三椏(みつまた)をつかった和紙に、接着剤として漆を使って、箔で表情をつけていくこと。
そのすべてにおいて「良い加減」をとるということの大切さ、これまでの経験を通した熟練した技術と、磨き抜かれた感性のおかげであることが伝わってまいりました。
■ 三椏の和紙とは
日本紙幣の原料になっていることでも知られているのが三椏です。枝が三つに分かれる凛とした姿からこの名がついたといわれています。開花の時期は2月から4月。春を連想させる植物として、着物や帯の図柄になることもございます。
一般的によく和紙に使われる楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)に比べると、”繊維の緻密さ”があるとされ、きめ細やかで、表面が滑らかに仕上がるそうです。
金沢などで作られる金箔を保管するための箔合紙の原料として使われております。

西陣の帯を目的に使われる和紙に求められることとしては、たて、よこの繊維方向が揃っていること。
織り上げたときにうねりにならないように、そして帯として締めたとき、より美しく見えるよう選ばれているといいます。
■ 漆をうすく、うすく、丁寧に正確に。
つぎに箔をつける準備として、和紙に、漆を薄く均等にのばしていきます。

引き箔づくりに欠かせない素材の一つが漆です。
漆は中央アジア原産とされ、古代に日本へ渡来し、各地で栽培されてきました。
樹皮からとられた漆汁は漆器から、各時代を代表する建物や仏像、芸術品、日本の様々な工芸品に使われてまいりました。
そして、日本製の漆器は、16世紀以降の国際市場の拡大に合わせてより広く世界に知られていくことになります。漆は環境的な要因からアジア以外では生育せず、世界から見ると未知の素材であったようです。そしていつしか漆器は王族貴族など裕福な人々の愛好の対象となり、財産を記した目録には、漆や漆器を表す言葉として、「ジャパン japan」という言葉が表記されていたといいます。
一方で現在では、国内で使用される漆はほとんどが輸入品に頼っており、残念ながら国内で作られる漆はごくわずかとなっているようです。
齋藤さんの手作業で精製された生漆が和紙の上にうすくうすく塗られていきます。
「そんな大したことでは…」とお話されながらに作業を進めていかれますが、美しい手際は熟練の技そのもの。
埃や糸くずが空気中にとばないようにと、普段は作業場に人をお入れになられないというお話を伺い、この仕事がいかに繊細な注意が必要であるか、ということを実感いたします。

■ 漆ならでは特徴…湿気が粘着力を生む
漆の粘着力は湿気を取り込むことで高まっていきます。齋藤さんの工房には「室」があり、そこにうすくのばされた漆のついた和紙をいれ、粘着力を高めていきます。
室に入れている間にお話しを伺っておりましたが、常に「良い加減」を見極めながら作業を進めておられました。
気候や天候に応じて水を撒くなど、湿気の調整をされています。バケツのようなものに水をためておいたり、冬はコンロで水を温めておくなど…自然の湿気をつかい、和紙の状態を整えておきます。
室に入れた和紙の変化を見せていただくと、水に近いところの漆の色が濃くなっていることがわかります。わずかな色の違いを見抜く力に驚くばかりです。
漆のつきがわるいと、この後の箔の使う量が多くなってしまいます。
帯の仕上がりを美しく締めやすいものにするために…
そして、希少な材料を大切に使うために…
「最少の材料から最大の効果」を生むため感覚が研ぎ澄まされています。
■ 箔の醍醐味、「砂子を振る」
こうして”和紙”に”漆”を伸ばして、準備が整った後は、箔で表現をしていきます。
金沢から取り寄せた箔を竹箸を使って篩(ふるい)に入れます。
静電気をさけるためにと使われている自然の素材による道具一つ一つには年季が入っています。
重なりあった箔から一枚ずつ取り分けた箔が、砂子になって和紙に振られていく工程は美しいの一言。
箔の量や大きさのバランス、手の感覚のみで振りかけられる箔の「良い加減」が仕上がりを左右します。
■ 美しいを美しく見せる”純粋”な素材
このような工程を経てひとつひとつ丁寧に作り上げられた箔を細かく裁断をして織り込んでいきます。
その幅わずか、0.03mm~0.04mm。
引き箔の種類には、「切」という言葉があり、70切とは、1寸(曲尺で約3cm)を70に裁断することを意味します。
100切というものもあり、1寸間に100に裁断するので、3cm÷100=0.03mmのものをひとつずつ織り込むことになります。
今回、撮影にご協力くださった斎藤さんの箔を引き箔として使い、織りあがった帯は「白馬」というタイトルでご紹介させていただきました。
少しずつ異なる色の箔を使い、また「切」も異なるものを織り込んでいく「乱引き」という技法によるものです。
折り重なったそれぞれの個性が絶妙なバランスで調和し、奥行きを生み出しています。

実はこの乱れ箔、図案などはなく、あくまでもランダムに織り込んでいくという織り手さんの感覚にゆだねられるものになります。
箔づくりのこだわりを活かすため、織の工程においても「良い加減」が求められています。
そしてその光沢をさりげなく支えるものは、美しい絹。勝山さんはものづくりを絹づくりから試行錯誤されています。そのこだわりはまたどこかでご紹介できればと思っております。
今回の撮影を通して、こうして「良い加減」が積み上げられてきたものだからこそ、シンプルながらも印象深い帯が生まれるのだと学ばせていただきました。
「良い加減」という言葉の奥深さと、追求し続ける作り手のみなさんの情熱に触れるひと時となりました。
こうした技法が今も受け継がれていること自体、私たちにとって大きな財産だと感じます。
ぜひ皆様も『きものSalon2026年春夏号』を手に取っていただき、引き箔が生み出す美しい光沢をご覧いただけましたら幸いです。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。
ゑり善 亀井彬
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