ゑり善 七五三ものがたり~三つ詣り編~

「わあっ可愛い!」
母善子(よしこ)、娘の椎香(しいか)とともにゑり善を訪れた京子(きょうこ)は、エレベーターを降りて目に飛び込んできた店の2階の景色に思わず声をあげた。
「8月はお嬢様の夏休みや帰省の機会に振袖を見に来られる方もいらっしゃいますので、振袖を中心に陳列させていただいております。この時期は七五三のお着物も含めて、節目のお祝いのお着物を豊富に取り揃えております。」
「素敵ねえ…しいちゃんが大きくなるのが待ち遠しいわあ。」
店員の説明に善子も呼応しながら陳列をうっとりと眺める。
今日は今年3歳になった椎香の七五三の着物を見るために訪れた。
数えの年齢でお詣りをするか昨年家族で話し合ったのだが、もう少し成長してからのほうが良いのではないかということになり、椎香は満年齢でお詣りをする予定である。
京子自身と妹の恵理子(えりこ)のときは三ツ詣りの着物を初着から仕立替えたと聞いていたので、椎香も同じようにしようかと思っていた。けれど着物好きの善子が「節目節目で違う着物を着るのも素敵じゃない。プレゼントさせて。」と言ってくれたので、その言葉に甘えることにした。
七五三のお着物は畳のほうにご用意しております、という店員の案内に従って三人も畳に上がる。


「三つ詣りのお着物は絵羽のものと反物がございます。椎香ちゃんのお好きな紫色のお着物は今回もおすすめできるものがなくて恐縮ですが、可愛らしいピンク色や、元気な印象を与えるオレンジや黄色系統のお着物も素敵だと思いますよ。」
そう言いながら店員は絵羽(縫い目でも柄が繋がり、仮仕立で着物の状態になっているもの)や反物を広げていく。
「ピンク!」
久しぶりに訪れた呉服店の雰囲気に、そわそわとまわりを見回していた椎香であったが、広げられていった着物を見て目を輝かせた。
「ね。ピンクのきものいっぱいあるね。…この間浴衣を着たときに、まわりからたくさん『かわいい!』と褒められて。それから、帯の色に選んだピンクがすっかり気に入ってしまったみたいなんです。」
椎香を膝にのせて落ち着かせながら、京子は彼女の好みの変化を店員に説明する。
「そうでしたか!お好みの色のお着物があって良かったです。」
「やっぱり小さい子用の着物は色が華やかで可愛らしいわね~。絞りのほうが三歳のあどけない感じと合うんじゃない?」
善子の提案に京子が思案する。
「絞りも確かに可愛い…けど椎香は虫が苦手だから蝶々はどうかな…しいちゃん、どれがいい?」
「ピンク!」
「このちょうちょでもいいの?」
「うん!」
「あら?絞りの蝶々なら可愛いデフォルメ感があるから大丈夫なのかしら。」
椎香の意外な反応に驚く京子であった。

「三歳さんのお着物は着物と被布が面積を占めますので、被布との色合わせも大切に思います。ピンクのお着物でしたら、赤や白はいかがでしょうか。」
京子の懸念を察知してピンクの反物も候補に残しながら、店員は着物以外に必要なものを紹介していく。
「被布も重ねるとまた印象が変わりますね…無地のほうもお花の被布飾りが可愛いけど白も柄が可愛くて捨てがたい…お母さん、どっちがいいと思う?」
「たくさんの色、たくさんの柄を合わせられるのも小さいときのコーディネートの醍醐味じゃないかしら?この絞りの着物なら白いほうが華やかになるわね。」
「この白い被布の柄は友禅ですので絞りとの違いも楽しんでいただけると思います。よろしければお羽織りになってお顔映りもご覧くださいませ。」

店員のすすめにより実際に羽織ってみると椎香がさらに楽しそうな顔になったので、京子は安心して絞りのピンクの三ツ身で仕立てることにした。
「続いてお着物の下にお召しいただく袖襦袢ですね。当店では袖布をお着物の色味に合わせて選んでいただき、胴にさらしをつけてお仕立てさせていただきます。このお着物のお色味でしたら少し濃いめのピンクや、赤などが良いと思うのですが…」
店員が袖布を広げ始めたところで善子があっ、と小さく声を上げた。
「家に同じ色の袖襦袢があったような気がするわ。濃いピンクの。初着の袖布を使って袖襦袢に仕立て替えたのだけど、恵理子が三ツ詣りをしたのが最後だからそのまま置いてあるはず。それを使わせてもらってもいいかしら?」
「もちろんでございます。裄(腕の長さ)によっては調整が必要かもしれませんので、一度ご寸法を測らせていただいてもよろしいでしょうか?よろしければお預かりに伺います。」
ゑり善では「外商」というスタイルも大切にしているらしい。善子も昨年の夏をはじめとしてゑり善でもお買い物をするようになってから、時折仕立て上がった着物などを家まで持ってきてもらうことがあった。
販売員がおすすめとして持ってきた品物が自分の持っているものと合うかどうかすぐに確かめられたり、着物のちょっとした相談がしやすかったりするのは善子も助かっている。
「お願いします。袖襦袢は着たときにほとんど見えないから新しく作らなくても良いかなと思ったけど、半衿と他の小物は椎香ちゃん用に揃えましょう。一番似合うコーディネートで思い出にも残したいわよね。」
「お母さん、ありがとう…」
善子の惜しみない心づくしに胸が熱くなる京子であった。

「七五三のお着物は可愛らしい刺繍の入ったものが揃っております。ちょうどお着物も赤色が裾や袖などのアクセントに入っておりますので、色衿をつけるのはいかがでしょうか。」
「着物の赤色とぴったり…!素敵ですね!」
「今袖襦袢についているのは白の縫衿だったと思うから、違う色にするのも素敵ね。寸法確認で預けるときに半衿の付け替えもお願いします。」
店員も京子や善子の好みを把握し始めている。
その他の小物も店員がすんなりと合わせたり、幼い割に自分の好みがはっきりしている椎香が気に入ったものを指差したりと、あれよあれよと決まっていった。必要なものが揃っているか確認しつつ店員が説明をする。
「袖襦袢の下には、普段のお洋服のときと同じ肌着をお召しいただいて構いません。また、お着物のうえからは兵児帯を締めていただくのですが、浴衣と一緒にお願いした兵児帯がございますのでそちらをお使いくださいませ。被布で隠れてしまう部分にはなりますが、お着物のお色味ともぴったりですね!」

コーディネートが決まったら採寸の時間である。
浴衣を仕立てるときに寸法を測ったとはいえ、子どもの成長は早いもので前に採寸したときから椎香もすでに数㎝伸びている。前回よりもさらに好きになったピンク色の寸法見本に椎香はすんなりと袖を通す。
「椎香ピンクのアイドル!」
「このきものが仕立てあがったらしいちゃんもっとかわいいアイドルになれちゃうのよ~。今はそのためのじゅんびの時間だから、もうちょっと待ってね。」
“変身”が嬉しくなったのか、寸法見本を着た途端さらに元気になった椎香を京子がなだめ、その隙に店員が寸法を測る。

「ありがとうございます。採寸は以上でございます。11月のお詣りまで、またご身長が伸びることが考えられますので、少々長めにお仕立てさせていただきますね。」
「よろしくお願いします。今回も椎香が気に入る着物に出会えて嬉しいです。当日も喜んで着てくれると良いんですけど…」
「椎香ちゃんのお着物姿が今から楽しみだわあ。私たちの着物のコーディネートも考えないとね。」
京子と善子はお詣りの日をそれぞれに想像する。当日の天気や椎香の体調など、不安が全くないわけではないが、今回選んだコーディネートを椎香が身に纏った姿を想像するとふっと表情が和らぎ、明るい気持ちが舞い込んでくる。きっと主人の陽太も喜ぶだろう、と京子は思った。
店員は別れ際に椎香にも「楽しみにまっててね。」と声をかける。満面の笑みで手を振りながらゑり善を後にする椎香に手を振り返しながら、今回も彼女らの姿が見えなくなるまで見送った。
『浴衣ものがたり』として始まったゑり善がお届けする創作物語。七五三バージョンの始まりです。
今回は椎香ちゃんの三つ詣り用のお着物が決定いたしました。
作中でも少し触れられていましたが、三つ詣り用のお着物は“三ツ身”と呼ばれる絵羽や七五三用の反物からお仕立てする以外に、お宮参りの際にお使いになった初着を仕立て替えることも可能でございます。
お家の大切なお着物を仕立て替えて長く使う良さも、善子さんのようにその時々であたらしいお着物を楽しむ良さもあると思います。
また、三歳さん用のお着物は浴衣も同じですが腰と肩、必要に応じて袖にも揚げをとって、前合わせをしていただきやすいように腰には紐をつけてお仕立てさせていただきます。
正式にはその上から兵児帯をしていただきますが、被布で隠れてしまう部分ですので、兵児帯をされない方や兵児帯の代わりに大人用の絞りの帯揚げをされる方もいらっしゃるようです。そちらもお子様のご様子やお持ちのものに合わせて工夫していただけます。
京子さんたちには京都本店に七五三のお着物が揃っているタイミングでご覧いただけましたが、銀座店、名古屋店でも七五三の特集があり、お日にちによっては商品の移動がございます。
以下の日程がそれぞれの店舗でお着物が揃っているタイミングですので、よろしければお近くの店舗でご覧くださいませ。
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8月18日(火)まで京都本店
8月21日(金)から8月末まで名古屋店
9月2日(水)より9月6日(日)まで京都本店
9月10日(木)より9月12日(土)まで銀座店
9月15日(火)より京都本店
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節目の行事は写真や記憶に残る大切な思い出となることと思います。お着物を通して、その思い出に彩りを添えられますようお手伝いできましたら幸いにございます。
お家にあるもので必要なものは揃っているかしら?コーディネートはこれでいいのかしら…そういったご相談も大歓迎でございますので、どうぞお気軽にお尋ねくださいませ。
今回も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
本店営業・久保田
![京ごふく ゑり善[創業天正12年]](https://www.erizen.co.jp/wordpress/wp-content/themes/erizen/img/common/logo_pc.png)

