きものを愉しむ

2025/02/02

型絵染による優しく美しい帯~染織作家 澤田麻衣子さんの工房を訪ねて

いつもブログをご覧いただき誠にありがとうございます。ゑり善の主人、亀井彬でございます。

2月に入り一段と冷え込みが厳しくなってまいりましたが、もうすぐ立春。春を待ち遠しく思いながらも、この季節ならではのあたたかいトンビコートの着心地が嬉しい毎日です。

さて、弊社が長らく続けてきた特徴のある展示会の一つが『糸繰りの詩~全国伝統織物展~』でございます。

全国各地で受け継がれてきた特徴のある織物や染物。毎年そのひとつひとつに焦点をあてて、できる限り丁寧にその土地風土から生まれた特徴をお客様にお伝えしております。私たちにとっても、様々なことを学び、気付き、改めて見つめなおす大切な機会となっております。

これまでブログでもご紹介をしてまいりましたので、ご参考になさっていただけましたら幸いでございます。

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2023.2→

八丈島に宿る力強い大地の色…山下芙美子さんの黄八丈

2024.2

“自然の癒し”と”人々の情熱”の賜物~琉球の染織「清ら」

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そんな糸繰りの詩ですが、2025年は染織作家の「澤田麻衣子さん」のものづくりに焦点をあててご紹介をさせていただくことになりました。

紬のお着物にもとてもよく合い、装う喜びにあふれたお品物の数々。ご自身もお着物を愛して、お召しになる澤田麻衣子さんならではの「着る愉しみのためにつくっている」という丁寧で美しいものづくり。

そのこだわりを京都本店、銀座店、名古屋店で開催する「糸繰りの詩」に先駆けて、少しだけご紹介をさせていただきます。

 

澤田さんのものづくりの特徴の一つは、ご自身でデザインを描き、型紙を制作され、糊を使い防染をした上で、彩色をされているということ。何度もお会いしたくなるような素晴らしいお人柄からうまれる創造性に富んだ作品は、見る人の心を豊かにしてくれます。

1.0から1を生み出すデザイン

制作はデザインを生み出すところから始まります。澤田さんにお伺いすると、やはりここに一番時間がかかるとのこと。

澤田さんの作品には植物の柄を表現されているものが多いのですが、そのモチーフを探すため、京都府立植物園にはよく出向かれるようです。また、茶花を専門に扱う花屋さんに通われているとも。常にアンテナをはって、作品づくりを考えておられるという言葉がとても印象的でした。こうして実際に足を運び、目で見て生み出された丁寧なデザインには、生き生きとした愛らしい表情が宿っています。ちなみに、この時点で「大体の色は想像できている」とのことです。

2.型紙をつくる

生み出されたデザインをもとに型紙を制作していきます。サイズは1尺4寸程度。一つの型紙を繰り返して、柄を表現していきますので、型の始まりと終わりの柄がぴったりと合うようにしなければなりません。

見学に伺ったときに拝見したデザインカッターは机の上に30本ほど。様々なカッターを表現したいものに合わせて使い分けておられるといい、澤田さんが生み出される線のひとつひとつには、とても表情があり、機械的ではない”やわらかさ”が見て取れます。作品の仕上がりを左右するこの型紙に澤田さんのセンスと技が込められています。

ちなみに、染色の型紙の使い方にもいろいろなものがあり、色ごとに別の型を使う技法もありますが、澤田さんの型絵染においては、染まらない部分に「糊を置く」ためのもの。この一枚の型だけで様々な色の組み合わせを自由に表現できることも特徴の一つです。

3.糊置き

天然素材であるもち米に、後で色が分かりやすいように群青の染料をいれて糊をつくります。長い板に生地をはって動かないように固定したうえで、型紙の上から糊をしごいていきます。柄がずれないように型紙を置いていきながらこの工程を繰り返します。

糊置きの工程にも澤田さんならではのこだわりが…

型絵染の一つとしてよく知られているのは、琉球の紅型です。こちらは顔料を使うことが多く、沖縄独特の明るい日の光に負けない力強い色を生み出すことができます。

一方で澤田さんが目指すのはよりやわらかな雰囲気。澤田さんは酸性染料という粒子の細かい染料を使って染をされます。にじみのないはっきりとした染め味にするために、2度、3度と糊置きを行い、糊の厚みを増していきます。丁寧に生み出された型紙の美しい線を活かした、くっきりとした輪郭線に仕上げるための工夫がここでもなされています。

滲み防止のための地入れを行い、彩色へとうつります。

4.彩色(柄絵付け手捺染)

丁寧に施された糊の上から、刷毛の面の部分をつかってしっかりと色を入れていきます。(いろをさすと表現します)

デザインをする際に考えていた想定の色をもとに、一色ずつ染めていかれます。型絵染の特徴は型の繰り返しによるリズム感ですが、どこに色をいれるかはその時々の感性でされるといいます。

「この色の隣はこれが良いなぁ…」

と、ご自身の感覚を信じて色差しをされていかれます。お太鼓や前柄の部分には着姿をイメージして少し強い色を。澤田さんのお持ちの色見本を拝見させていただきましたが、美しい色の組み合わせはずっと見ていたいほど素敵なものでした。よどみなく色を差していかれる姿は、やはりこれまでのご経験の賜物であると感動いたしました。

この後、蒸しによって色の定着をして、水元で糊を落として、湯のしを通して仕上げられます。こうして、澤田さんの色鮮やかな帯が生み出されます。

子供のころから「絵を描くことが好き」と門をたたいた美術の世界。
大学で感じた「色の勉強がしたい」という想い。
卒業後に京都を離れ暮らす中で、型染を習い始めたことがきっかけとなります。
京都で仕事として始め、20年近く彩色担当として、磨いてこられた配色のセンス。
8年前からは、「着物を愉しむお客様の要望に応えられるようなモノづくりができるように」と独立をされました。

色についていつも感じる事なんですが…と澤田さん。

お締めくださる方と型紙が先に赤い糸で繋がっていて…
 私がたまたま彩色をする技術があるので…
  手に乗り移ったような感覚になるときがある

と語る氏の”優しく” “美しい” 作品を是非お近くでご覧になってくださいませ。

京都の会ではご在廊もいただける運びとなりました。
皆様のご来店を心からお待ちいたしております。

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糸くりの詩 -全国伝統織物展-

特集

 型絵染 澤田麻衣子

出展作品

米沢紬・赤崩紬・塩沢紬・本塩沢・小千谷紬・信州紬
本場結城紬・本場黄八丈・秦荘紬・西陣御召
本場大島紬・琉球織物・男物各種・他

【京都本店】
開催日時
 令和7年2月7日(金)〜9(日) 午前10時~午後6時
会場
 京都四条本店 〒600-8002 京都市下京区四条河原町御旅町49

7日(金) 午前10時~午後3時
8日(土) 午後1時~午後4時
9日(日) 午後1時~午後4時
(澤田麻衣子さんご在廊)

【銀座店】
開催日時
 令和7年2月13日(木)〜15(土) 午前10時~午後6時
会場
 銀座店 東京都中央区銀座7丁目3-7

【名古屋店】
開催日時
 令和7年2月20日(木)〜22(土) 午前10時~午後6時
会場
 名古屋店 〒468-0076 名古屋市天白区八事石坂641

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京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。