きものを愉しむ

2026/09/30

京の技に触れる~夏季研修の記録~

一気に涼しくなり、秋の風が吹いてまいりましたね。
いつもゑり善のブログをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。

皆さま、はじめまして。本店・営業の筒井と申します。
現在入社3年目になりまして、着物の美しさにときめきを感じながら、日々店頭に立たせていただいております。
私は特に「つくり手」にとても興味があり、先日は山形県米沢市まで旅行を兼ねて米沢紬・紅花染めの見学に行ってまいりました。米沢は紅花や苧麻(麻)などの材料が豊富であり、また豪雪地帯という土地柄も合わさり室内でできる産業が発展していったようです。京都とはまた異なる現地の街並みや、織機の音、染める前の紅花の色や匂い、そしてつくり手の想いを直接感じてまいりました。

長年受け継がれ、文化や生活と密接している染織の世界。一番肌身近くに纏う工芸品。
着物の魅力をこのブログを通して皆さまにお伝えできましたらと考えております。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

ゑり善では、毎年8月に若手社員を中心とした夏季研修がございます。
私の入社いたしました一昨年度は型絵染の作家澤田麻衣子さんの見学を、昨年度は西陣の帯にまつわる職人さんや工房さんの見学を。

そして本年度は、京友禅の様々な工程の職人さんや工房を見学させていただきました。
本日は、改めまして京友禅の生まれるまでの工程を振り返りながら、職人さんの言葉を交え研修での見学の様子をお伝えいたします。

〈今回のキーワード〉
・京友禅とは
・昔の鴨川は、いろんな色をしていた(水元工程)
・金彩は、着物のお化粧(金彩工程)
・京友禅の分業制と職人さん

京友禅に使用する道具。専用の染料と筆が置いてあります。

〜京友禅とは〜

「京友禅」は、江戸時代の元禄期に京都で活躍した扇絵師・宮崎友禅斎が、扇絵の模様を衣類にも取り入れたことに由来するとされています。
この頃に餅米を使用した防染など様々な技法も生まれ、町人文化のなかで流行し、現在日本を代表する技法となっております。

京友禅と聞くと金彩や刺繍による華やかな装飾を想像する方も多いかと思いますが、その裏の徹底した分業制も大きな特徴のひとつです。
京友禅の分業工程は、実際いくつあるかご存知でしょうか。

考案から完成までに、なんと「20」ほども工程があり、職人さんのリレー形式で1枚の着物を仕上げていきます。
白生地がたくさんの工房を行き来し、そして京友禅が出来上がるのです。
京友禅の着物ができるまでの主要工程は、以下のようになります。 

1.  雛形デザインの作成  
2. 下絵 
3. 糸目糊置 
4. 地入れ 
5. 挿し友禅(柄への色挿し) 
6. 蒸し 
7. 伏糊 
8. 引き染め(地色染) 
9. 蒸し・水元  
10. 金彩・刺繍 
(※完成品や使用する材料によって工程数の増減、工程順は前後いたします。)

また、これらの前後には、白生地の湯のしや検品、最終の補正や仮の形に縫い上げる上絵羽などもあり、イメージできる工程、名前も初めて聞く工程、様々だと思います。
入社したての頃の私も、この工程の多さに驚いた覚えがございます。

京友禅のお振袖。白地に可愛らしく菊と桜が描かれています。

友禅といえば、石川県を中心とした加賀友禅や東京友禅などもありますが、これらの多くは分業制ではなく一人の作家による一貫制作が一般的となっております。
なぜ京友禅は、今なお分業制という伝統を守り続けているのでしょうか。

私はこの分業制とは、着物を効率良く制作するためにあるのではないかと考えておりました。
特に着物の生産量が多くあった時代は、京都市内で工程ごとに作業をするということはとても理にかなっていたと想像できます。

では、京友禅における分業制とは、ほんとうに効率のためのものなのでしょうか。

 

研修の中で特に印象に残っている工程を2つご紹介し、今回発見いたしました職人さんや分業制に対する学びをお伝えしていきます。

 

〜昔の鴨川は、いろんな色をしていた〜 
<水元工程>

水元工房の風景。染帯が数本、人工河川を流れています。

この工程は、着物に色挿しをしたり地色を染めた後、余分な染料や糊などを洗い流す工程です。
水元を行う工房は京都に100件ほどあった時代もあるそうですが、現在では数件ともいわれる規模に縮小してしまっています。

「昔の鴨川は、いろんな色をしていた」と、職人さんが話しておられたのが印象に残っております。

といいますのも、以前まで鴨川や桂川など、河川を使用し着物の染料をそのまま流していたそうです。
その為、京都の川は日によって異なる色鮮やかな姿をしていたといいます。

鴨川に職人さんが入り、着物の染料や糊を洗い流すそして染料が流れでて川が色づく。このような景色があったことを、今回初めて知りました。

昭和46年に水質汚濁防止法が施行されたことにより、通称「友禅流し」は水質保全の観点から禁止となりました。
それ以降は工場内に川の水を引き、着物一反(約13メートル)を流すことのできる細長いプールのような人工河川を使用して作業を行っています。

鴨川などの河川ですと、天気などに左右されたり、時期により水質の変化があったりしたそうです。
しかし、現在は人工河川のため季節を選ばないという利点があります。
これにより水元工程は、水質の管理までをも行うことのできる様な、より質の良い着物を生む技術を得ました。

一方で、人工河川になってからは水量や川幅などが狭まったことより、流れ出した染料がほかの着物に付いてしまうリスクが増えてしまいました。そのため、一度小さいプールの中で一番濃い染料を洗い流してから、人工河川で全体を流すという手順に変化したそうです。また濃い地と薄地の管理も行い段階分けを行う様にもなりました。

伝統産業や工芸の世界では、昔からやり方を変えず今にそのまま続いているというような話を聞くことも多くあるかと思いますが、やり方を全く変えないのではなく、このように環境や生活の変化に合わせ変わってきていることも多くあります。

京都という地で、より良いものを生み出すにはどうしたら良いのか、そのような柔軟な職人さんの工夫と、そして在りし日の京都の姿を見ることができたような気がいたします。

 

ちなみに、
これらの昔の姿を再現するように、毎年8月の第一土曜日、日曜日に開催される鴨川納涼祭にて、「友禅ファンタジー」としてデモンストレーションが行われます。
染料を実際に流すことはできないため、いろんな色に染まる鴨川を見ることは叶いませんが、水元工程にご興味をもっていただいた方にはおすすめのイベントでございます。
本年度分は過ぎてしまったばかりですので約一年後にはなりますが、鴨川に友禅染の反物が泳ぐ雅な姿はぜひご覧いただきたい京都の風景でございます。

 

〜金彩は、着物のお化粧〜 
〈金彩工程〉

金彩加工。作業をする職人さんの手元が写っています。

金彩は、箔を用いて行う、着物への最後の装飾加工の工程です。
和紙に柿渋を塗った筒を用いて線を描くものや、糊を付け上から箔を押し乗せるなど、様々な道具と手法で彩ります。

私は、この金彩の工程は友禅の彩色に加え、着物をより華やかにするための加工だという印象をもっていました。しかし、今回この言葉を聞き、印象が変わりました。

「金彩は、友禅の最後の工程で、着物のお化粧なんだよ」と。

20人もの職人さんによるリレーを終えた着物を最終的にどうやってよりよく見せるか、これが「着物のお化粧」なのです。
人のお化粧も、その人が持つ雰囲気やイメージに合うやり方でないと活きてこず映えません。
お着物も、お化粧するのと同じでまずは表情をしっかりと見て、そして着物の柄や雰囲気に合わせて金彩を施す必要があります。

ただ華やかにするためだけではなく、良い柄の表情をさらに引き出したり、ときには染の粗を隠したり。
経験からくる「着物を見る目」は金彩加工の職人さんのみ持つ特殊パワーであり、全体を取り纏める重要な最終工程であると改めて感じることができました。

 

~京友禅の分業制と職人さん~

研修を通して、京友禅の分業制とは、効率が良いから行っているという理由だけでないことに気づかされました。

今回ご紹介しました2工程以外にもいくつか工房を見学させていただいたのですが、職人さんは私が思っていた何倍も、それぞれの工程に責任と熱意を持っていると感じました。
京友禅の職人さんの仕事は依頼通りに作業を丁寧に行うだけでなく、工程ごとに着物を見つめ直し、さらにより良くしようとそれぞれが監修のような感覚をもっているのかもしれません。

各工程の職人さんが専門性を極めているからこそ、華やかで愛される最高品質と呼ばれる精度の高い着物が生まれているのです。
これが京友禅が今もなお、分業制であり続ける一番の理由ではないでしょうか。

職人さんたちの責任と熱意のある仕事ぶりを間近で拝見し、たくさんの学びと発見と、そして感動が止まりませんでした。私自身つくり手の技に触れたことで、今後より着物を大切にしたいと思えるような、そんな経験をいたしました。

 

本当は、20工程全てを見学し、それぞれの魅力を事細かくお伝えしたいところではございますが、今回はこのあたりで失礼いたします。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

本店営業・筒井

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」代表取締役社長として働く「亀井彬」と京都で営業として働く「久保田真帆」 二人が日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできましたら幸いです。