きものを愉しむ

2024/02/01

雅の世界~源氏物語絵巻 綿風呂敷のご紹介~

新しい年になり早くも2か月目のスタートです。
いつもご覧いただき誠にありがとうございます。
本店・営業の久保田でございます。

突然ですが皆様はドラマなどご覧になりますか。
日曜日の20時といえば……そう、大河ドラマです。
1月から新しい物語が始まりましたね。今年の中心人物は紫式部。
私事ですが、大学では日本の古典文学と和歌などの韻文を中心に学んでおり、
平安時代は一番好きな時代ですのでこの大河ドラマをとても楽しみにしておりました。

さて、紫式部と言えば何を思い浮かべますか?
なんといっても有名なのはやはり『源氏物語』でしょう。
天皇の皇子として生まれ、才能にも容姿にも恵まれた光の君が、
様々な女性と関わりながら恋に生き、また栄華を極めていくお話です。

なんとなくお話は知っていても54帖全て読んだことのある方はそう多くないかもしれません。
とても長いお話ですので全容を知るのも一苦労です。
私も大学の授業で『源氏物語』をとりあげることがありましたので、
かいつまんであらすじを知ったり、多少本文を読んだりはしましたが、
お恥ずかしながら最初から最後まで通して読んだことはまだありません。
先日やっと漫画で全体のあらましを知りましたので、次は現代語訳、はては原文を読んでみたい…
と思っております。一生のうちにやり遂げたいことのひとつです。

 

『源氏物語』は当時の貴族文化を知るのにうってつけの作品ともいえます。
当時の人たちが嗜んでいたもの、好ましいと思っていたもの、行われていた行事や儀式など、
光源氏の生い立ちを追いながら合わせて知ることができます。
現代の感覚では共感できないこともあれば、
当時の人も同じようなことを考えていたのかと気付かされることもあります。
ずっと前から変わらない人の心に時代を経ても繋がりを感じることができる、
それが古典の楽しみのひとつではないかと思います。

それでも、たくさんの登場人物に時代背景もよくわからないと
なかなか本を開いてみるのも気が向かない、なんてこともあるかもしれません。
その場合は「目で見て楽しむ」というのはいかがでしょうか。

 

物語の一場面などを絵画に起こした絵巻物。国宝に『源氏物語絵巻』がございます。

全4巻からなり、名古屋の徳川美術館に3点、東京の五島美術館に1点収蔵されています。
成立について明らかになっていないこともありますが、現存しているのは19場面。
一つの帖から最大で3場面絵画化していることもありますので、
帖の数でいえば54帖中12帖を絵に起こしています。
それも光源氏の子である薫誕生のあたりから、
宇治十帖と呼ばれる薫が主人公となる帖の場面がほとんどです。

ゑり善では、徳川美術館に収蔵されている絵巻のうち4場面を、
なんと綿風呂敷にてご紹介しております。
徳川美術館とゑり善のみでお取り扱いしているこれらお風呂敷の場面を
まずは簡単にご紹介いたします。

 

竹河 二(源氏物語44帖)
綿風呂敷 竹河

こちらは『源氏物語絵巻』のうち、最も彩色の保存が良いとされている場面です。

光源氏とゆかりのある女性、玉鬘(たまかづら)。
その玉鬘の娘、大君(おおいぎみ)と中君(なかのきみ)が
庭の桜の所有権を賭けて碁を打っているところです。
その様子を、大君に思いを寄せる蔵人の少将という人物が御簾の蔭より覗いています。

・左上:大君と中君が碁を打つ様子
・右下:蔵人の少将
・その他の人物:侍女(お屋敷や姫君に使えている者)たち

 

橋姫(源氏物語45帖)
綿風呂敷 橋姫

薫を主人公とした宇治十帖の始まりの帖です。
薫は光源氏の実の息子ではないのですが、自身の出生に悩む薫は出家願望が強く、
出家はしていないものの僧のように宇治で慎ましく暮らす八宮(はちのみや)のことを知り、
よく宇治を訪れるようになります。八宮には二人の美しい姫君がおり、ある日薫は宇治に赴いた際、
二人の姫君が琵琶と琴を奏でている場面に出くわします。
自分が訪ねて演奏を止めてしまっては、とそっと透垣の蔭から様子を伺う場面です。

・左上:琴と琵琶を手にしているのが大君と中君(どちらがどちらかは諸説あり)
※「大君」「中君」とは長女、次女のような意味なので「竹河」の大君、中君とは別人です
・右下:薫
・その他の人物:侍女たち

 

宿木 二(源氏物語49帖)
綿風呂敷 宿木

薫のライバル匂宮(におうのみや)と、六の君と呼ばれる夕霧(光源氏の長男)の娘の婚姻場面です。
当時の結婚は男性が女性のもとに3夜連続で通い、3日目の朝に結婚の儀式を行うという風習でした。
3夜を過ごして朝を迎え、日の差す室内にまともに相手の顔を見た匂宮はさらに思いを募らせます。

・右側:匂宮と六の君
・その他の人物:侍女たち

 

東屋 一(源氏物語50帖)
綿風呂敷 東屋

宇治十帖のヒロインともいえる浮舟は、匂宮の妻になった中君(橋姫と同一人物)の異母妹です。
一時中君に預けられた浮舟はその屋敷で匂宮に迫られます。
なんとか事なきを得たものの傷心の浮舟は中君の部屋に招かれ、
絵巻物などを見せてもらうことで慰められています。

・左奥:浮舟。絵草紙を見ています。
・左中:浮舟の侍女 右近。浮舟が眺める絵草紙の詞書を読み聞かせます。
・左手前:中君。侍女に髪を梳かせています。
(当時の女性は髪がとても長かったので、洗ってお手入れするのも一日がかりだったとか。)
・その他の人物:侍女たち

 

『源氏物語絵巻』という美術価値のあるものをお風呂敷の柄におこす。
絵巻物は鑑賞して楽しむものですので、お風呂敷でも同じように、
「物を包む」という本来の用途に加えた楽しみ方が出来ると思います。
そこでこの後は、少し通な源氏物語風呂敷の楽しみ方をご紹介させていただきます。
ポイントは3つです。

 

〈生地の丈夫さ〉
綿風呂敷の生地

まずは風呂敷の本来の用途からおすすめポイントをご紹介します。
綿風呂敷の生地は綿の中でも厚みがあり、紬風のしっかりとしたものを使用しております。
大きさも105cm×105cmでございますので、安心して物をお包みいただける大きさと丈夫さです。

 

〈再現度の高さ〉
橋姫 月

東屋 冊子と巻物

実際の源氏物語絵巻の大きさは約21.8cm×48.5cmです。
それを手仕事で、風呂敷の大きさ(柄部分50cm前後×約105cm)に引き伸ばしたサイズの型を作り、
染めています。

「橋姫」の右上に描かれる月は、もとは満月だったと言われており、
また、「東屋」で浮舟の前には冊子や巻物が置かれていたと言われています。
時を経て変色したり剥落したりしてしまった部分さえも染めで忠実に再現しております。
美術館などでは鑑賞するにはどうしても距離ができてしまうものも、
お風呂敷では手に取ってまじまじとご覧いただけるのも一興ではないでしょうか。

「東屋」には、絵巻物に付随している詞書もともに風呂敷にデザインされています。
本物と比べてみても料紙の箔の箇所もほぼ同じ、
文字もそのまま読めるのではないかと思える再現度の高さです。

 

〈当時の様子を知ることができる〉
竹河 碁

橋姫 琴と琵琶

源氏物語の至る所に散りばめられている貴族の風流な暮らしや当時の文化。
「竹河」では碁を打っている様子、「橋姫」では琴や琵琶を演奏している様子が描かれています。
「宿木」も婚礼の場面ですので、貴族の贅を尽くした華々しい婚礼の様子が分かります。

竹河 垣間見

橋姫 垣間見

「竹河」では蔵人の少将が、「橋姫」では薫が
それぞれ御簾や透垣の蔭から屋敷の様子を伺っていますが、
この「垣間見(かいまみ)」と呼ばれる行為はご存じの方もいらっしゃるでしょうか。
当時の女性はむやみに人前に姿を見せてはいけないとされていました。
女性のうわさを聞きつけ、その人のことが気になった男性は、なんとか一目見ようと
気づかれないように女性のお屋敷を訪ね、こっそりとその姿を目に焼き付けるのでした。

今回ご紹介するのはこれまでにとどめますが、
その他衣装など、風呂敷4場面だけでも注目できる点が多々あります。

 

以上、源氏物語絵巻のお風呂敷のご紹介でございました。
好きな時代に筆も進み、ついいつもより長めのお話となってしまいましたが、
ここまでお読みいただきありがとうございます。

お風呂敷は使う場面がなくとも、そのお柄に楽しみを見出すことができます。
また、入社するまで風呂敷をほとんど使ったことがなかった私ですが、
いざお仕事で風呂敷が必需品である身になってみると、ちょっとしたものでさえも包める、
傷をつけないように物をまとめられるお風呂敷は便利なものだなと思います。

実はお風呂敷は外国の方にも人気です。
日本ならではのお土産として、テーブルクロスやタペストリーとしてもお使いいただいております。

源氏物語絵巻含め、一部お風呂敷はネットからでもお求めいただけます。
お柄の楽しいお風呂敷はほかにもございますので、ぜひ商品紹介のページもご参照ください。
いざ必要になったときのために、または観賞用として
お風呂敷をお手元においてみてはいかがでしょうか。

本店営業・久保田真帆

〈参考文献〉
・徳川美術館・財団法人徳川黎明会『国宝 源氏物語繪巻』昭和50年10月1日
・財団法人 五島美術館『国宝 源氏物語絵巻』
「開館四十周年記念特別展 国宝 源氏物語絵巻」図録 五島美術館展覧会図録NO.125
平成12年11月3日

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。