きものを愉しむ

2026/01/31

見て着て自然を愉しむ~おし花の帯のご紹介~

あっという間に新年も一か月を過ぎようとしております。
一月は行く、二月は逃げる、三月は去る…という言葉もあながち嘘ではないですね。
いつもご覧いただき誠にありがとうございます。
本店・営業の久保田でございます。

もうすぐ暦の上では春がやってきますが、大寒波の到来に記録的な積雪と、まだまだ寒さの厳しいこの頃。花咲く春が待ち遠しいですね。
今回はそんな季節をひと足早く感じていただける帯のご紹介でございます。

 

おし花の帯コーディネート

春の花、桜の帯。この柄で春の風情を…とそれだけではありません。
こちらの帯、一見桜の柄を織り込んでいる通常の帯のように見えますが、実は本物のおし花を使って作られているのです!

「おし花」というと、小さい頃シロツメクサの咲き誇る野原の中、四つ葉のクローバーを探して地面に目を凝らした日…やっとの思いで見つけた四つ葉を大切に持ち帰り、おし花にして本のしおりにした…そんな思い出がよみがえってくるかのようでございます。

…といっても、おし花を帯に織り込むとはどういうこと?と思いますよね。
まずはこのおし花の帯の制作過程からご紹介いたします。

 

~おし花の帯ができるまで~

〈おし花を作る〉
押し花

帯におし花として織り込まれる植物は、機屋さん自ら栽培されています。
お花を育て乾燥させながら圧力をかけて固定し、花を押します。

 

〈デザインする〉
実際に花を置いていきながらどのような帯にするか、デザインしていきます。
この機屋さんでは女性の感性を大切にしているといいます。
私もこの帯を一目見たとき、ありきたりですが一番に「綺麗…!」と思い、心躍りました。
女性の感じる美しさを体現している帯のように思います。

 

〈接着する〉
押し花を置いたところデザインしたお花を、箔づくりの職人さんが作られた生地に接着します。
その後、お花の保護のために、美濃和紙というとても薄い和紙をお花の上から貼ります。
出来上がりの帯を見ても、和紙が上から貼られているとは思えないほどの薄さです。

 

〈裁断する〉
箔を裁断したもの

さて、生地ができあがったら織り込むための準備に入ります。
押し花を置いてデザインした箔をどうやって織り込んでいくのか。糸と同じような状態にできたら作業がしやすいですよね。そのために箔をお花ごと裁断します。
その幅なんと0.7mmから0.8mm。
箔をしっかりと固定してまっすぐに裁断するため、切り屋さんの技術が光る瞬間です。

 

〈織る〉
いよいよ裁断した箔を経糸と絡ませながら、手作業で織っていきます。
順番通りに箔を入れていかなければ、裁断する前のようなデザインにはならずに柄が途切れてしまいます。細く裁断した箔が間違いなく織り上げられ、なめらかな柄ゆきに仕上がるのは織り手さんの技術あってこそです。

 

おし花の帯

ひとつひとつ手織りで丁寧に作られるため、デザインして、箔づくりをして織り上げるまでに3ヶ月ほどの時間を要します。
お花の栽培から含めるとひとつの帯をつくるまでに半年近くかかることも。

帯づくりもお着物と同じように分業制でございます。
帯をデザインする人、箔を作る人、裁断する人、織り上げる人…どこか一つができなくなってしまっては完成しない帯。
職人さんの技術には感動するばかりです。

 

~この技術に注目!「きぬはく」について~
通常、箔は和紙に金箔や銀箔を貼り付けて、細かく裁断したものを糸と同じように織り込んでいきます。
箔と箔を裁断したところ

おし花の帯も工程としては同じですが、特徴的なのは和紙ではなく絹を使用することがあるという点です。
シルク生地

絹箔

「きぬはく」と呼ばれる絹の上の箔加工。
絹の裁断は和紙よりも難しいのですが、なぜ絹を使うのか。
それは、絹のほうがやわらかくしなやかな仕上がりになるからです。
「シワになったらもどりにくい」という和紙の欠点を改良する術はないかと試行錯誤したうえでたどりついた方法だといいます。

何度でも締めていただきたい。美しさの続くおし花の帯を長く楽しんでいただきたい。

そんな作り手さんの思いがあらわれているかのようです。

 

和紙をかけた箔

さらに絹を使用することによって、地の部分もより表情豊かなデザインにすることができます。写真は絹の上から和紙を重ねて青海波の地紋のようにデザインした箔です。
絹のみならず、和紙や樹脂なども活用しながら箔づくりをされています。

 

~自然由来の帯づくり~
ところでおし花を帯にして、色あせたりお花がとれてしまったりしないだろうか?と思う方もいらっしゃると思います。
おし花を作るうえでは水分を抜くことが何よりも重要で、しっかり乾燥させることによって変色を防ぐことができるといいます。
また、お花がきちんと生地に定着していないと裁断する段階でとれてしまうので、接着もしっかりとしています。そのうえでお花の上から美濃和紙でカバーをしているため安心してお召しいただけます。
自然のもののため、絶対に永久的に今の状態のままだとお伝えすることはできませんが、綺麗なお花を美しい状態のまま、末永く愛でていただける帯だと思います。

着物や帯を作る絹糸も、もとをたどればお蚕さんの繭からできています。
自然なくしてうまれなかった絹織物。

自然の中に身を置くとリラックスできるように、自然由来のお召し物に身を包み、ゆったりとしたひとときを過ごしてみるのはいかがでしょうか。

 

おし花の帯アップ

これらおし花の帯は2月6日から京都本店を皮切りに始まります双美展で特集させていただきます。
昭和12年から続いておりますこの会は、もとをたどれば着物とお花、「双」方の「美」をお楽しみいただく会でございました。
現在ではお着物の新作発表の会となっておりますが、今回は帯から「お花の美」を感じていただくことができます。

このブログでは紹介しきれないほど、様々なお花を使用した帯をご用意しております。
お花としてのデザインだけでなく、お花を使って動物を表現した柄などもございます。

自然のものなので同じお花を使っても全く同じにはできあがらない唯一無二の帯。
本物のおし花がどのようにして織り込まれているのか、裁断したとは思えないほどなめらかな仕上がりを、職人さんの技術をぜひその目で、間近でご覧いただけますと幸いです。

皆様のご来場心よりお待ち申し上げます。

 

本店営業・久保田真帆

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」代表取締役社長として働く「亀井彬」と京都で営業として働く「久保田真帆」 二人が日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできましたら幸いです。