新春の彩り~競作受賞者インタビュー~
気づけば新年も半月を過ぎ、早くも時の流れの速さを実感しております。
いつもご覧いただきありがとうございます。
本店・営業の久保田でございます。
毎年一月の会で発表させていただく「競作(きょうさく)」。
社員のアイデアをもとに製作した作品のことをそう呼びます。
競作という取り組みについては以前のブログで紹介させていただきましたので、ぜひこちらもご覧くださいませ。
着物を生み出す愉しみ①~”社員競作”という取り組みを続けている理由
着物を生み出す愉しみ②~競作体験記~
さてこの競作という取り組み、「競う」という文字があるように投票制度があり、最多得票の作品には賞があたえられます。
賞の種類は3種類ございます。
慶春賞:「初はるの会」にご来場いただいたお客様の投票により決定
社友賞:取引先の方々の投票により決定
競作賞:支店も含めた全社員の投票により決定
以前は私の初の競作についてお話させていただきましたが、今回は受賞者にお話を聞いてまいりました。
栄えある賞を受賞した社員がどのようなアイデアから作品作りに取り組んだのか、その思いもお楽しみいただけましたら幸いです。
【慶春賞&社友賞 訪問着 桜花爛漫】
〈作者のコメント〉
前から見た姿は桜の花びらが舞っている小紋のような雰囲気を感じるように、後ろから見た姿は枝ぶりの桜が満開になっている華やかな着物になるように工夫しました。
一枚の着物で満開の華やかさと、散り際の儚さの対比を表現しています。
―作品を思いついたきっかけを教えてください。
お客様が桜の着物を探されていたのがはじまりです。
競作なのでどのようなデザインにするかは自分の発想をもとに作りましたが、今回ははじめて明確なお客様をイメージしながら作りました。
―例年夏ごろから競作を考えると思いますが、今回はどのような流れで作っていきましたか。
桜の着物の話が出たのは夏よりも前ですが、競作を考える時期になって具体的に動いていきました。
地色から決定し、柄に関してはどのような工夫をするか常に頭の片隅で考えていました。
「後ろが華やかな柄」を思いつき、桜はお客様が好きな枝ぶりの桜を取り入れました。
―こだわったポイントを教えてください。
着姿が前から見た場合と後ろから見た場合とで変わるところです。
競作でもあるので普通ではない着物を作ろうと思っていました。
―今回はイメージされたお客様がいらっしゃるとのことでしたが、普段はどのようにして競作の題材を考えますか。
個性や自身のアイデアを活かして作品作りをする人もいますが、自分は普段店頭に置いてある着物から考えることが多いです。
こう工夫したら面白くなるのではないかと、自分好みにアレンジしてみます。
そういった意味ではゑり善の雰囲気の延長線上で、古典的な作品を作ることが多いです。
―ありがとうございました。
黒地に舞う花びらも綺麗で、夜桜鑑賞をしているかのようなお着物です。
投票時にお客様はご自身がお召しになることを想像して、取引先の方は作り手目線から作品を選ばれるのかななどと思ったこともありましたが、良いものに惹かれる気持ちは皆同じなのだなと思います。
【競作賞 染帯 plume】
※プリューム:フランス語で羽根の意味
〈作者のコメント〉
世界中で古来より、〈上昇・飛躍〉のシンボル、〈平和・友情〉の証、〈魔除け〉のお守りとしてさまざまな幸運のモチーフとされています羽根を金彩でエレガントに表しました。
お手もとに、より一層益々の幸せが舞いおりてきますように。
―作品を思いついたきっかけを教えてください。
羽根をモチーフとした柄が好きで、数年前から自分でもふわりと動きのある羽根の柄の帯を作りたいと思っていました。
あるとき自分のイメージにぴったりの羽根の柄のレターセットを見つけてこれだ!と思い、参考にして競作にとりかかりました。
―羽根の柄を表現するのに友禅などではなく金彩を選ばれた理由はありますか。
自分が作りたかった、羽根が舞い降りていくような表現は本来友禅で描く方が表しやすいのかもしれませんが、金銀の煌めきで、エレガントに表現したかったので荒木泰博さんにお願いしました。
荒木さんの洗練されたデザイン力と、何色もの金銀をセンス良く組み合わせての金彩技術がとても好きで、というのもあります。
―こだわったポイントを教えてください。
軽やかな、エアリーな、羽毛のような羽根になるようにとにかくこだわりました。
というのも着物の柄でみられる羽根は破魔矢や矢羽根のように凛と直線的な柄が多いからです。
今回の競作は、世界各地でも親愛の証や幸運の意味を持つ羽根がお手もとに舞いおりてくるような表現にしたく、流れのある配置と大きさにこだわりました。
―柄だけでなく市松模様の地紋の生地も珍しいなと思いますが、その他工夫された点はありますか。
細かくシャープな変わり市松の地紋は柄の立体感が引き立ったと思います。
地色についても金銀が映える赤みのない色を探し、焦げ茶に決定しました。
下絵や配色など、どこまで職人さんにお任せするかは社員にもよりますが、今回自分は柄の配置、大きさ、細かい色味など細部まで相談しながら製作しました。
―ありがとうございました。
繊細で立体感のある金彩により、羽の一枚一枚が実際に舞っているかのように動きがあります。
販売員本人のアイデアから競作を考えたとしても、色味や柄の雰囲気などはどのようなお客様にお召しいただけるか、想像しながら製作する者がほとんどです。
今回素敵な作品作りの極意も聞き出そうとお話を伺う中で、お客様の「こんな着物が欲しい」という一言がきっかけで別誂えが始まり、成長の機会をいただくことがあるという言葉も印象的でした。
色合いや柄の配置など、少し違うだけでも雰囲気の異なる作品ができあがります。
そのあたりのバランスは経験を積み重ねていくことで得ていく感覚だと思うので、別誂えというのは社員にとって勉強になることが多いのです。
必ずしも思い描く通りには仕上がらないリスクもありますが、自分好みにアレンジできる楽しさもございます。
こんな着物や帯があったらな、ご希望がございましたらぜひ担当社員にお申し付けください。
お客様の何気ない一言からも、次回の競作のアイデアが生まれているかもしれません。
本店営業・久保田真帆