きものを愉しむ

2023/08/30

“秋”の着物の着こなし ~「暑い秋」から「肌寒い秋」まで愉しめる着物の魅力~

いつも弊社のブログ「着物を愉しむ」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。
京ごふくゑり善の亀井彬でございます。

全国各地で猛暑が続く夏となりましたが、
朝晩にはようやく涼しい風が吹き、季節の移ろいを感じるようになりました。

エアコンの効いた室内におりますとこのようなわずかな変化にはなかなか気付けないのですが、
ふと外に出て、山野の草花や風を感じる環境に身を置きますと、季節が変わりゆく様が感じられますね。

「山から季節は降りてくる」と聞いたことがございますが、
日本の豊かな自然が感性をくすぐり、心を癒してきたことを感じる夏となりました。

さて、夏が過ぎると秋。
なにげなく見ている「秋」という漢字ですが、
穀物を表す「のぎへん」と
収穫後の穀物を乾燥させるための天日干しにちなんだ「火」から成り立っております。

また、全く存じ上げなかったのですが、「秋」と書いて「とき」とも呼ぶようです。
「事に当たって特に重要なとき」という意味があるとか。

今も昔も変わりませんが、こうした感じの成り立ちを知ると
日本人にとっていかに「実りをいただく秋」が大切な時期であったのかを感じることができます。

さて、着物を愉しむ皆様にとっても、秋は待ち遠しい季節の一つ。
暑さも和らぎ、お集まりの機会も多くなる秋は、まさに着物でお出かけしやすい絶好の時期といえます。


<秋の着こなし~移り変わる秋を組み合わせで愉しむ~>
秋といってもまだ「夏の暑さが残る秋」から「冬の寒さも感じる秋」まで幅広くございます。
その広さが秋の醍醐味でもあるのですが、そうした季節の広さに対応できるのが着物の魅力の一つです。
今回はそんな秋の季節の組み合わせについて、昨年の気温も振り返りながら、ひとつずつご紹介をさせていただきます。

 

【9月の着こなし】
 まだまだ夏の暑さの残る秋

 着物 → 単衣(裏地のつかないお着物)
 帯  → 袷(比較的涼やかさのあるもの)
 帯〆 → 袷(すけ感のないもの)
 帯上 → 袷(すけ感のないもの)

2022年9月の気温は…
【京都】
 平均気温:25.9℃ 最高気温の平均:30.6℃ 最低気温の平均:22.2℃
【東京】
 平均気温:24.4℃ 最高気温の平均:28.8℃ 最低気温の平均:21.1℃
【愛知】
 平均気温:26.1℃ 最高気温の平均:30.5℃ 最低気温の平均:22.8℃
(※気温のデータは国土交通省気象庁のデータより)

9月とはいえ、やはりまだ最高気温が30℃を越える日もあり、日中は夏のような日差しを感じる頃です。
地域差もございますが、9月は基本的には「単衣の着物」に「袷の帯」をお勧めしております。

7月・8月にお召しになるお着物は「夏物」。
季節の移ろいと共に、透け感のある夏物のお着物や帯から、透けない生地へと移行をしていく期間となります。

ただ、上述しているように最高気温が30℃を越える日もあるのが、9月。
厳しい暑さの残る9月上旬頃までは夏物をお召しのお方や、単衣の着物に夏帯を合わせておられる方もお見かけます。
特におしゃれ着としてのお楽しみであれば、気温に合わせて柔軟にご判断されることをお勧めいたします。

単衣のお着物の魅力の一つは、
6月の初夏には「夏帯」を、
9月の初秋には「袷の帯」をと、
同じ着物でも異なる2種類の季節の帯を合わせられることにあると感じております。

初夏の時とはまた雰囲気を変えて、単衣のお着物をこの季節に存分にお愉しみくださいませ。

なお、いずれの季節も同様ですが、
帯〆と帯上などの和装小物は帯の季節感にあわせるとバランスのよい組み合わせになります。

御召 染帯
(秋の帯として定番のもみじ。紅葉が色づく様子が印象的な袷の帯)

【10月の着こなし】
 暑さが和らぎ過ごしやすい気候に

 着物 → 単衣裏地のつかない袷の着物
 帯  → 袷の帯
 帯〆 → 袷
 帯上 → 袷
 ※コートなどはすけ感のないものに。

2022年10月の気温は…
【京都】
 平均気温:18.1℃ 最高気温の平均:23.3℃ 最低気温の平均:14.0℃
【東京】
 平均気温:17.2℃ 最高気温の平均:21.5℃ 最低気温の平均:13.8℃
【愛知】
 平均気温:18.7℃ 最高気温の平均:23.8℃ 最低気温の平均:14.8℃

古くから夏服と冬服を入れ替えていたのが10月。
そのころとは、気候が変わったとはいえ、今なおお着物の世界での衣替えは10月といえます。

気温を見ましても、暑さがぐっとおさまってくるのがこの季節。
最高気温も平均すると25℃まではいかず、平均気温は20℃を下回ります。
いわゆるお着物でお出かけしやすい気候といえますね。

「○○の秋」というように様々な文化が香り立つ季節はそれに伴う式典も多くなります。
こうした正式でフォーマルな装いはもちろんのこと、
美術館などに日常のふとした時間に、着物でお出かけしたくなるころです。

朝晩は肌寒いときもありますので、上に羽織るコートや羽織なども10月の頃を経て、
透け感のあるものから、目の詰まった生地のものに移り変わってまいります。

裏地をつけない単衣コートがあればこの季節はとても重宝致します。


(辻が花による菊の表現。絞りならではのやわらかな印象ながら、細やかな彩色がさりげなく目を惹きます)

【11月の着こなし】
 最低気温が10℃前後に。寒さ対策も少しずつ始める季節

 着物 → 袷の着物
 帯  → 袷の帯
 帯〆 → 袷
 帯上 → 袷

2022年11月の気温は…
【京都】
 平均気温:14.1℃ 最高気温の平均:19.3℃ 最低気温の平均:9.9℃
【東京】
 平均気温:14.5℃ 最高気温の平均:19.1℃ 最低気温の平均:10.7℃
【愛知】
 平均気温:14.6℃ 最高気温の平均:19.7℃ 最低気温の平均:10.4℃

寒さとともに紅葉が進み、街が彩りを増す季節。
日差しは暖かくも夏の暑さが懐かしく感じます。
月の後半には年末も近づきなんとなく気ぜわしくなる季節ともいえます。

10月から5月までの6か月間は、基本的にこの袷の組み合わせとなります。
11月も年間を通しても最も長くお召しいただける袷のお着物や帯が活躍します。

同じお着物でも帯や小物を変えると表情を変えられますので、
この季節ならではの帯があると、自然とお着物の着用シーンが増えます。
秋を連想させる帯〆や帯上で色遊びを愉しむのもこの季節ならではの着物の醍醐味です。

お集まりの目的やご参加される方との関係性を考えながらTPOに応じたお出かけをなさってくださいませ。


(まず地色に目が留まる染帯、浮かび上がるように描かれた秋草はとても個性的)

<衣替えは早見表をご参考に>
ここまで代表的な秋の着こなしをご紹介してまいりました。
お店でもよくよくご質問いただく内容ですので、弊社サイト内にコーディネートのご参考となる衣替えの早見表もご用意しております。
こちらも是非ご参考になさってください。
→知る学ぶ 季節

 


<帯で四季彩を愉しむ~私たちが大切にしてきたもの~>
着物の愉しみの一つはコーディネート。

着物に袖を通すことで、豊かな気持ちで一日をお過ごしいただけることはもちろんですが、
お召しになる前に、季節の移ろいを感じながら、少し先の季節に思いをはせて、組み合わせを考えるひと時は着物ならではの楽しい時間です。

私たちにとってもお客様と、お出かけの日を想像しながら、その時季節の中に映える組み合わせを
あれやこれやと考えるひと時は何よりありがたくとても楽しいひと時です。

弊社では長年「その季節ならでは!」という季節を纏う喜びをご提案してまいりました。
特に染帯、なごや帯にはできる限り季節感を大切にしております。

それは、ご普段のお着物に合わせやすく、何かの行事がなくとも、お使いいただけるからです。


【なにかのイベントや行事があるからお着物をお召しになる】
だけではなく、
その帯を見ることで、「せっかくなので着物でお出かけしてみようかなぁ」と
【帯がお出掛けのきっかけになる】
機会をつくることができましたら何より嬉しく思います。

秋のお出かけのひと時がより楽しく、想い出に残るひと時になるように。
私たちも春頃から秋に向けての商品の準備を進めてまいりました。

この秋の展示会「双美展」にて発表をさせていただきます。

楓や銀杏の紅葉も定番の柄から、葡萄などの果物なども実りをイメージするもの。
くすっと笑顔になるようなものまで。

秋から冬にかけてのの季節の帯を是非ご覧になってくださいませ。
皆様とお着物談義ができますことを楽しみにいたしております。

【展示会のお知らせ 第156回秋の新作発表会 双美展】
→銀座店 令和5年9月7日(木)~9日(土) 午前10時~午後6時
→京都本店 令和5年9月15日(金)~17日(日) 午前10時~午後6時
→名古屋店 令和5年9月21日(木)~23日(土) 午前10時~午後6時

ゑり善 亀井彬

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。