夏に映える浴衣 ~涼やかを生む 竺仙さんの”こだわり”に迫る~
いつもゑり善のブログ、「きものを愉しむ」をご覧いただきまして誠にありがとうございます。
ゑり善の亀井彬でございます。
心地よい春の日差しに美しい桜が舞う季節となりました。
入学式を迎える親御様の少し緊張した表情と共に、凛とした着物姿が街を彩っております。
さて、今回はこれからシーズンを迎える浴衣の特徴についてご紹介をいたします。
題して、「夏に映える浴衣 ~涼やかを生む 竺仙さんの”こだわり”に迫る~」です。
どうか、きものの愉しみを再認識するきっかけになりましたら幸いです。
■日本の衣服における大切な条件
着物という言葉は、「着る物」という意。
言葉の由来を考えると、日本の伝統的な民族衣装全体を表していることとなります。
そして、日本の衣装が、今日までどの様な変遷を遂げたかを知るには、日本の地理的条件を考えることが大切です。
私たちの祖先は、寒いとは言え、凍え死ぬほどの寒さでもない冬よりも、むしろ湿度の高く蒸し暑い夏をいかに快適に過ごすかという事に、いろいろな工夫を凝らしてきたようです。
壁の少ない風通しの良い部屋に住み、脇に開きのある大きな袖のついた衣服を前で軽く合わせて、帯を締めることによって少しでも夏を過ごしやすく考えたのでしょう。
一方で冬になると、取り外しの簡単な襖や障子で風を防ぎ、衣服を何枚も重ねることで寒さを防ぐ工夫をしてきたといえます。
その意味においては、当時と気温が異なっているとはいえ、暑い夏をいかにすずしく乗り切るか。という考えは、着物の誕生以来大切なテーマであったといえるのです。
■ 竺仙さんのこだわり
さて、弊社では毎年、東京日本橋の竺仙さんの浴衣を取り扱っております。
江戸・明治から伝わる型紙と職人さんの”鋭敏”な勘から生み出される美しい反物。
「竺仙鑑製」と染め抜かれた証紙にある「鑑」の一字には、手本になる、かがみ、また目利きなどの厳しい意味が込められています。
竺仙さんは江戸後期、1842年の創業。
江戸染浴衣の独特な技術を活かして、浴衣から江戸小紋へと世間に名を馳せ、歌舞伎の世界にまでその生きざまが描かれたほど。
いつの時代もものづくりにこだわり、新しい挑戦を続けておられる姿に染色の更なる成長と明るい未来を感じております。
そんな中でも今回は、竺仙さんといえば“コーマ!”
といえるほど、人気の定番商品であるコーマの浴衣のご紹介をいたします。
特に、「暑い夏をいかに涼しく乗り切るか」という大切なキーワードに対する価値として
①大胆かつ上品さを残す柄行き
②紺と白のコントラスト
③汗をかいたときにこそ涼しさを感じる生地
このの3つの点に注目をしてご紹介いたします。 ①上品さを残す柄行き
竺仙さんといえば、やはり、その柄行きがとても特徴的。
「そぎ落とされたシンプルさ」が涼しさを生み出しております。
私たちが数多く扱う京友禅や西陣織の図案には、「ものがたり」を込めることが多いです。
花や自然の風景と、道具や吉祥柄、色の組み合わせなど。
着物から感じ取るものがたりを連想する楽しみがございます。
一方で、特に竺仙さんの浴衣の柄の特徴は、ぱっとみて分かるシンプルさが印象的です。
それはまるで、江戸っ子の気質を表しているのかもしれません。
「道端に咲くひまわりの美しさ」をそのまま写し取ったようなもの。
「柳が風に揺れている様子」をそのまま描くなど。
余分な表現をいれずに、そぎ落としたすっきりとしたデザインは、だれが見ても、きれい!涼しげ!と感じることができるものです。
また竺仙さんは琳派の柄をモチーフにした型が多いとおっしゃいます。
デフォルメされたデザインが一目でさらに涼感を感じさせているのかもしれません。
夏の日差しの中で映える洗練されたデザインはいかにも涼しげであり、
お召しになる方はもちろんですが、周り方をも涼しい気持ちにさせてしまう力があるように感じます。
②紺と白のコントラスト
竺仙さんの浴衣を語るうえで、紺と白のコントラストは外せません。
はっきりとした色の使い方は、ぱっと目を惹き、美しい着姿を生み出します。
そのコントラストを生み出す秘密は、東京の染工場にありました。
コーマと綿絽は注染(ちゅうせん)という技法によって染められております。
戦後間もなく建てられたという染工場の中で、ひとつひとつ手で進められている様子。
弊社instgramでは、動画としてご紹介しておりますので、是非ともこちらもご覧くださいませ。
【型置き】
注染はまず型置きから始まります。
絹に比べると変化が大きく、ぶれが起こりやすい木綿の生地を板に張ることも至難の業。
その生地に防染のための糊を置いていきます。
注染においては、生地の表と裏にも糊を置きます。
その糊が付く場所が表と裏で同じ場所になるように、ずれることなく、合わせていく。
生地・柄・色によって糊の固さを変えたり、つける糊の量を盛ったり(染料に負けないように多く付ける)、柄がつぶれないようにギリギリまで薄く付ける(かっきったりと表現されていました)など、均一に生地に糊をつけていかれます。
職人さんの仕事はとても速いですが、その動きの精密さに驚かされます。
経験を重ねながら知識と実践の繰り返しで身体が覚えているとおっしゃっておられました。
【注染】
字のごとく、染料を上から注ぎ、下からバキュームで吸い込むことで染めあげていきます。
染め分けるための糊で土手を作り、じょうろで高温の染料を注ぎ込みます。
その染料の量、染の回数、バキュームの加減によって、色は変化します。
職人さんは目の前の見本を見ながら、あくまでこれまでの勘によって、仕事を進めていかれます。
注染は”風が通る染”という言葉を伺いました。
生地の上に色をのせているわけではない。
上から注ぎ、下に染料を通しているからこそ、風が通るような涼しさを感じるのかもしれません。
ひとつひとつ手によって染められるため、同じ柄であっても本当の意味では少しずつ異なる染め味になります。
その奥深い染め味をどうか間近でご覧くださいませ。
【水元】
注染では、色を定着させるための蒸しは行いません。
色が定着したあとには、糊をおとし、水に通して、乾燥させます。
風になびいて、浮かび上がるコントラストからも涼やかな印象がのぞきます。
③汗をかいたときにこそ涼しさを感じる生地
コーマと呼ばれる竺仙の生地。
名前の由来は、「こうむ」という”櫛”を表す言葉と伺いました。
櫛でとく髪の毛のように、細い糸をつかって密度高く織り上げた綿織物をつかっています。
毛羽立ちも少ないことも特徴の一つ。
密度が高い生地に、注染をするおかげで、ドットが細かく、柄の先端のとがった表現が可能になっているといいます。
またこの生地の最大の魅力は着装したときに分かるといいます。
一見すると分厚い生地で、あつくないの?をご質問をいただくことがあります。
ただし、むしろ密度が高いからこそ汗をしっかりと吸ってくれます。
水が蒸発するときに周りの熱を奪っていく”気化熱”。
汗をかいた後の涼しさを感じることができるのも、このコーマ生地ならではの特徴といえます。
竺仙さんの浴衣ならではの涼しさに、これまで3つのこだわりから、迫ってみました。
①大胆かつ上品さを残す柄行き
②紺と白のコントラスト
③汗をかいたときにこそ涼しさを感じる生地
ゑり善では4月から各店の店頭に、浴衣が並んでまいります。
是非とも、この素晴らしい技による浴衣に袖を通してみませんか。
暑い夏がやってくるのが楽しみになるかもしれません。
京ごふくゑり善 竺仙 ゆかた 発表
〇京都本店
2024年4月3日(水) より 販売開始
〇銀座店・名古屋店
2024年4月15日(月) より 販売開始
皆様とお会いできますことを心から楽しみにいたしております。