きものを愉しむ

2023/09/21

絞りのいろはと桶絞り

9月に入り、やっと涼しさを感じる時間も増えてまいりました。
いつもご覧いただき誠にありがとうございます。
本店・営業の久保田でございます。

前回のブログでは秋の着物の着こなしについてご紹介させていただきました。
単衣や袷、どの時期の着物をお召しになるかということはもちろんのこと、どんなお着物をお召しになるか、ということも重要なことですよね。
染めの着物、織りの着物、刺繍や金彩が施されているものなど…
皆様のお好みはどのようなお着物でしょうか。
今回は染色技法の一つ、「絞り」についてのご紹介です。

ゑり善では夏季に新人社員を中心に研修を行っており、工房などを訪れ、職人さんたちの技術を見学させていただきます。お着物の魅力を皆様にきちんとお伝えできるよう、社員が身をもって職人さんの思いや技法を理解し、知識を深めてまいります。

今年は絞りについて勉強し、工房を見学させていただきました。
ということで今回「絞り」に焦点を当てた次第でございます。
研修で得た知識や感動を、この場を借りて皆様にお届けできるよう努めますので、しばしお付き合いいただけますと幸いです。

 

〈絞りのいろは〉

さて、早速ですが「絞り」と聞いて皆様はどのような様子を思い浮かべますか?
どのような印象を抱きますか?

糸を使って防染し、生地を染め上げる絞り。
その仕上がりには、独特の柔らかい輪郭と立体感が生まれます。
その絞りならではの特徴に、可愛い!という印象を抱かれる方が多いのではないかと思います。

日本の絞りの産地といたしましては京都の京鹿の子絞り、以前浴衣でご紹介した愛知の有松絞りが有名です。
それぞれ絞りの方法は異なりますが、今回は京都の絞りをご紹介いたします。

絞りの方法は、大きく二種類に分かれます。
「生地の一部をつまみ、糸で括って染める方法」と、「生地に糸を入れて、引き締めて皺を寄せ、更に防染加工を施して染める方法」です。
前者は疋田絞り、後者は帽子絞りが代表的でしょうか。

疋田絞り 糸で括った様子 疋田絞り 括った糸を外した様子

疋田絞りとは、一度は目にしたことがあると思います、あの粒々とした目の並んだ絞りのことです。
生地を爪でつまんで細かく括るため、粒の大きさが小さいほど、頂点の目の形が揃うほど上等と言われます。
職人さんひとりひとりの手の癖、力のこめ具合が違うため、粒を統一するために、一つの生地につき一人で作業を行うのだとか。

 

帽子絞りの芯帽子絞り 括った様子帽子絞り 糸を外している様子帽子絞り 開いた様子

帽子絞りは、防染する大きさに合わせた芯を中に入れ、色の境目を糸で引き締め、防染部にビニールをかぶせて染め上げます。
染め上げる面積が大きくなると、防染の役割を果たすのが今度はビニールから桶にかわります。
今回の研修では、桶絞りの職人さんのもとも訪れましたので、続いてはこちらをピックアップいたします。

 

〈桶絞り〉

桶絞りとは、染める部分を桶から出し、防染する部分はすべて桶の中に入れ、中に染料が入り込まないように固く固くふたを閉め、桶ごと染液の中に入れて染め上げる方法です。

絞りの基本的な工程は共通しており、
下絵→糸入れ→絞り→染め→絞り解き(絞りをほどく作業)→湯のし(生地の巾出し)
というようにすすみます。
分業制で行っており、一反の生地ができあがるまでに5~7人の職人さんの手を渡ります。

桶絞りも、糸入れまでする職人さん、生地を桶に固定する職人さん、
色を染める職人さん…と分かれており、生地を桶に固定する作業と染色の様子を見学させていただきました。

桶絞り 糸入れまでした生地を引っ張って縮める桶絞り 縮めた糸と桶の縁を合わせて留めていく桶絞り 布を桶にすべて留めた様子桶絞り 桶の蓋をしめる

桶への固定ではまず、糸入れまでした生地を引っ張って縮め、縮めた部分と桶の縁を合わせ、留めていきます。
桶ごと染料の中につけるため、ひとつの桶につき、一色しか染めることができません。
一色分固定して、染色をする職人さんのもとへ渡し、その色が染められたら次の色を固定して…と同じ作業を繰り返します。
染料が中に入り込まないようにしっかり固定することは力も要り、また、縁を合わせること自体難しい作業です。
それを容易く作業されているように見えたのは、まさに熟練された腕のなせる技だと思いました。

桶絞り 桶を固く固定した様子桶絞り 染色の様子桶絞り 染上がった様子

染色では、60℃以下の染液に桶を入れます。染液につける時間は大体決まっており、染液から出して色の出具合を確認した後、色や濃度を調整して再度染色する作業を繰り返します。
染液の濃度や温度、その後色どめのために入れる酢酸の濃度は職人さんの手や舌を使って確認されていました。こちらも経験から磨かれた感覚です。

 

絞りは分業制と先ほど申し上げましたが、職人さん一つ一つの作業が確立し、次の人の工程がやりやすいように考えて、わかりやすい下絵を用意したり絞り向きの生地を選んだり、工夫をされているからこそ綺麗に仕上がるのです。
しかし絞りに限った話ではないですが、職人さんの高齢化が課題となっています。
技術の習得の難しさを知るとともに、今お着物などで見ることのできる技術は当たり前にあるものではないことを思い知りました。

桶絞り 染上がり、桶の蓋を開けた様子桶絞り 生地を伸ばした様子

今回ご紹介した内容はあくまでも、私が研修にて得た知識であり、絞りの世界の中のごく一部にすぎません。
お着物の世界は奥が深すぎて学びきることはできないのではないかとよく思いますが、絞りのように様々な奥深い世界が重なり合ってお着物ができていると考えると、納得せざるをえない気持ちになってまいります。

奥深いから知るのは大変ですが、奥深いから面白い。
そう思っていただけたらそれはもう深みにはまる第一歩です。
今回の内容で少しでも絞りに、お着物に興味を持っていただけておりましたら幸いです。

桶絞りの振袖絞りの四つ身

ゑり善では桶絞りのお振袖や、絞りを施した可愛い七五三のお着物などをご用意しております。
職人さんの技術と思いのつまった、柔らかくて可愛らしい絞りを身につける、というのも素敵なことではないでしょうか。
ぜひ一度、絞りのお品物もご覧に足をお運びくださいませ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

本店営業・久保田真帆

京都・銀座・名古屋にて呉服の専門店として商いをする「京ごふくゑり善」の代表取締役社長として働く「亀井彬」です。
日本が世界に誇るべき文化である着物の奥深い世界を少しでも多くの方にお伝えできればと思い、日々の仕事を通して感じることを綴っていきます。