型絵染作家 澤田 麻衣子さん Sawada Maiko

着物のこれから

亀井

これからの着物がどうなっていくかは私たちの大きな課題です。どうお互いに手を取り合っていったらいいんだろうなっていう。
作り手さんの、染織作家の澤田さんとして、着物の世界はこうあってほしいなという思いはありますか?

澤田さん

この対談前に質問の資料をいただいていましたが、そこを考えるのが一番難しかったですね。答えが出なかったところで。
自分はね、着物が好きで楽しんで着ているから全然今のままでも楽しいし、いいなと思うんです。でもきっと社長がおっしゃる“これからの着物”っていうのは、興味が無い方にどう提案していくか、どう興味を持ってもらうのかということなのかしら、と思ったりして。以前廣田紬さんのところでそういう内容の会(『令和のきもののしごと展』)をされていましたよね。どのようなお話だったのでしょうか?

亀井

私は『着物を好きになってもらう』というのは違う思っていて。自分が話しかけたことで着物好きになってもらうのは難しいことなんですけど、でもどこかのタイミングでその人の気持ちが変われば、そのタイミングでお手伝いできるようになると思っています。どうやったらその人の気持ちが変えられる、じゃなくて、ふっと気持ちが変わるきっかけはどこにあるのかなとずっと考えていまして。毎日四条河原町を通っていてゑり善をご存じなかった人が、例えば澤田さんの帯を締めている人を見かけて「めっちゃかわいい~!私も着物着てみたいな!」となるかもしれない。心が変わるきっかけは何なのかと思ったときに、とりあえず着物での露出を増やさなければいけないなと。
着物の世界を今まで知らなかった人に「こういう人たちがこの世界で仕事をしているんだ」「こんな人たちが今業界を支えているんだ」というのを知ってもらえたら、という想いでイベントを行いました。
私は主催者側ですので、ゲストとして参加した人の意見を聞きたいと思います。

澤田さん

着物業界の若手の!

亀井

パネリストでもあります。

久保田

私は若手社員としてトークに参加させていただきました。トークテーマの中にも「呉服業界の10年後はどうなっているか」という話があり、私は先を見据えて行動していくことが大切になっていくのだろうと思っています。過去に比べて着物が衰退しているのは事実なので、そこを盛り上げるためにはやはり世の中の需要を見極めつつ仕掛けていけるような。「どうなっていくか」というよりは「どうするか」が大事だと個人的には思っています。具体的にどう動いていくかという考えまでは至っていないのですが。
社長が言ったように、着物に触れる機会を増やすことは大事だと思います。自分自身、着物への興味があってこの業界に入っていますが、就職するまでは着物の種類もよく知らなかったので、知ることから始まるのだと思います。

亀井

そういう意味での澤田さんの力はすごく大きいなと思っているんですよね。ぱっと見て、着物をあまり知らない人でもかわいい!と思うような垢抜け感っていうんですかね。澤田さんの言葉を借りるとしたらワクワク感のような気がするんですけども。

廣政

型絵染といっても、澤田さんの作品は和だけでなく洋の要素も感じられます。昔ながらの伝統は大切ですが、でも伝統的なものって現代の感覚からするとハードルが高く映ることもあると思うんです。澤田さんは日本の伝統文化でありつつ日本に限らないデザインで表現されているので、視覚の情報はすごく大きいなと思いますね。
「まずは見た目で好きと思うかどうかが重要」と職場でもよく話をしています。見た瞬間に「これが好き!」と思えるものが自分にとって良いものなのだと思います。澤田さんの帯はそれが一番の魅力です。

亀井

みんな澤田さんの作品を見ていろんなことを考えていますね。

澤田さん

すごいわと思って!確かにね、お買い物は一目惚れじゃないですけども、目に入った時点である程度決まっているというか。「どっちがいい?」って聞いてみても実はもう決まっているのに…っていうのがよくありますよね。そういう風に感じてもらいながら、手に取ってもらえるものを作るというのはありがたい機会であり、プレッシャーも感じます。

「楽しい」と「かわいい」で着物を着る

亀井

ものを作るプレッシャーというのを私は本当の意味では分かっていないです。0から1を作って、それがどんな評価を受けるのか…すべてご自身の力と責任でやられているのはすごいなっていう一言ですけど、押しつぶされそうになることはありますか。生みの苦しみというか。

澤田さん

評価されることに対しての怖さみたいなものもありますし、どんな評価が来ても自分で決めたことなんだから受け入れるっていう覚悟も当然あります。生みの苦しみ…そうですね、作品がなかなか生み出せなくて苦しい部分、苦しむほうが多いですけれども、それはそれで当然のことですからね。
型染めは型紙が残るので繰り返し制作できます。同じ型を使って新しい配色を考える。0からではなく、1から。型紙があることによって配色に100%つぎ込めるのは、型絵染の良さです。

亀井

生みの苦しみ感が作品に全然出ていないのがすごいなと思います。

澤田さん

それはこっちが持っているもので、出しちゃいけないものだと思います。どんなに苦しんでいようが、お客様にとっては関係ないことであると。
制作の苦労話をしてくださいと言われることもありますが、それは本当に関係ない部分だと思っています。
楽しいとかかわいいとか、もうその部分だけで着ていただきたいなと思いますね。

亀井

私たちも苦労を見せてはいけないところは一緒です。最近はものを売る難しさが強烈に出てきています。豊かな時代から今日本は過渡期を迎えているなかで、ものを売る難しさ、足を運んでもらう難しさを感じていますが、このあたりの困難はものを作るとはまた別の段階の人が苦労すべきであり、小売店の果たす役割なのかなと思っています。この難しい役割を私たち小売店が担っているのは意味があるし、ありがたい役割だなと。
きれいなことだけではご飯を食べていけないというのも、芸術と産業の両立の難しさだと思います。

澤田さん

流通の中の、ひとつの部分としての役割ですもんね。

亀井

でもこれは見せてはいけないという。久保田さんは営業職3年目(※取材当時)、楽しみも苦労もどちらも感じていると思いますが、どうですか?

久保田

お客様に商品をおすすめするということは、お時間を頂いて話を聞いていただくということです。入社したての頃はこれで本当に大丈夫かなと思うこともありましたが、今は職人さんにお話をお伺いするたびに、職人さんの想いやどうやって作品が作られていくのか、その過程をお客様にお伝えしたいと思っています。それを伝えるのが営業の役割の一つでもありますし、商品について伝えたいという感情が自分にもあって、それをきちんと届けるというのが最近の目標となりつつあります。人の想いが繋がっていく、という表現はちょっと大きすぎるかもしれないですけど、最近はそういう意識が芽生えてきました。

廣政

お客様の目に触れるところでいうとウィンドウのディスプレイは重要だと思っています。今回も澤田さんの展示会前に告知としてウィンドウに作品を陳列させていただき、いつもよりも足を止めてじっくり見ておられる方が多いなと感じました。
四条河原町の一角にディスプレイを出すということは、店の評価に関わる、責任感が伴うことです。ディスプレイを通して季節感やコーディネートの楽しさなどをお伝えするのは大事な仕事の一環かなと思っています。

亀井

やはり伝えるという役割が小売りにとって大事ですね。伝えていくためにも、私たちはもっと作品のことや作っておられる方の気持ちを辿っていく、迫っていく重要性が増してきているような気がします。

澤田さん

着てくださる方がワクワクするだけじゃなくて、営業のときに伝えたくてしょうがない!みたいな、そういうものが作り出せたら一番いいかなと思いますね。心が動かないとおすすめするのにもなかなか苦しくなっちゃうでしょうから。自然と湧き出るようなもの、想像を搔き立てるようなものが作れたらいいなあと、今お話を聞いていて思いました。ゑり善さんのディスプレイは私も楽しみにしていて、四条河原町に行くときでも、こっちを通っていこうみたいな。そういう方ね、きっと多いと思います。

着る人を想う

亀井

澤田さんのエピソードですごく印象に残っているのは、機関車の帯ですね。澤田さんの地元の新潟の小学校では毎年子どもたちがSL機関車をきれいに掃除しに行かれると。その子どもの視点で見たSLが…

澤田さん

車輪だけ(笑)

亀井

作品を語る上でこういう切り口、言葉があると勉強になりました。

澤田さん

なんでSLが正面からの絵じゃなくて、車輪なんだろうっていうのはなかなか話をしないとわからないですよね。これは自分でも後から「だから車輪なんだ!」って気が付いて。

亀井

全然意識されていなかったという(笑)それは誰かに言われて気が付いたんですか。

澤田さん

もともとSLで、というオーダーがあったんですよね。そのときに、その方が乗ったSLは実は私が小学生の時に掃除していたものですよというお話になり、じゃあその柄を作りましょうと決まって。
でも結局その帯はその方にはいかなかったんです、その人がイメージしたSLと違うから。

亀井

それ面白い話ですね。

澤田さん

私にとっては子どもの時の印象が強すぎて、車輪のほうになっちゃった。同じモチーフにしてもどんなアプローチでいくのかは全然違ってくるので、私がこう作るに至ったその道を伝えていただければ、より身近なものとしてお客様に渡っていくのかなっていう。親しみが近くなる感じはしますね。

亀井

呉服業は分業制だからこそ多くの方が携わっていて、一級品の仕事で支えている。澤田さんがいらっしゃって、廣田紬さんがあって、ゑり善があって、販売員がいて、お客様がいて。
これだけでも結構な流れがある中で、増えていく情報がありながらも消えていく情報もあります。良くも悪くも伝言ゲームの難しさ、もどかしさがあります。川上から川下まで降りてくる情報は多くあるんですけど、川下から川上に戻す努力がなかなか出来ていないことが大きな課題だと思っています。
小売店からの「よくなかったよ」は集まるけど、「よかったよ」はなかなか集まりにくい気がします。そういうのは欲しい情報なのか、あまりなくてもいいと思うのか、どっちなんだろうって思って。

澤田さん

欲しい情報ではあるんですけど、それは川下から分けていただくだけじゃなくて、作り手であるこちらが取りに行ってもいい情報なんじゃないでしょうか。自分で着るとかね。
情報をくださいって言っているだけだと結局又聞きになってしまいます。やっぱり実際に自分が着てユーザーから直接聞く話じゃない限りは、他の人を通しての意見になっちゃうので…こっちが直接仕入れに行くことがないとだめな気がしますね。

亀井

実際にそこまで行って聞いてみるっていうことですね。実体験を伴うというのは一番強いですね。

澤田さん

そうですね。どうしても流通になっちゃうと売れるものが強い。売れるものじゃなくって、本当に欲しいものはどんなものか、友達としての意見じゃないとなんだか血が通っていないのかなって気がします。

亀井

『令和のきもののしごと展』』は商談が起こるような場所ではなかったので、結構フラットに話ができました。ビジネスが入るとやっぱり利害関係が生まれてしまうので。

澤田さん

お客様は敏感ですしね。買う側はお商売のにおいがしちゃうと「あぁ、この人売ろうとしてる」ってちょっと離れちゃったりする。営業の難しさってきっとそこですよね。

久保田

押し売りにはしたくないし、お客様に楽しんでいただくのが一番っていうのは先輩方からも教わっていることなので、その塩梅が難しいです。

亀井

久保田の商売を見ていると、お客様がご自身の好きな商品を購入されるのはもちろんですけど、彼女がおすすめしてくれるのなら…と興味を持っていただける、そういうターンに少しずつ入り始めているなのを感じます。

澤田さん

最終的には”人“ですよね。