幻の花-紅花染に挑み続けて

2020年02月28日

2月も残すところわずかになってまいりました。
いつもブログをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。

さて、本日は3月に開催いたします展示会「糸くりの詩」にて特集致します
「紅花染 よねざわ新田 新田源太郎作品展」に関するご紹介です。

紅花

皆様は紅花の歴史をご存じですか。

紅花の原産地はアラビアと考えてられいます。
紀元前2500年頃の古代エジプトのミイラをまいた布は紅花で染められており、古くから地中海沿岸やインドでは染料のための植物として、また薬用の植物として利用されていたといいます。

日本には推古天皇の時代(6世紀~7世紀初め)に朝鮮半島経由で渡来したと考えられておりますが、
奈良県の遺跡からは、大量のベニバナの花粉が出土されており、さらに古い時代から存在したとも考えられています。

「紅」と書いて「くれない」と読みます。これは「呉藍(くれあい)」という発音に由来します。
当時、日本にとって歴史が深く、最も親しみやすい代表的な染料は「藍」でした。
そのことから「藍」という言葉は染料の総称を指すほどだったようです。
呉(中国)から渡来した染料ということで「呉藍」と呼ばれていたと考えられています。

一方で、今回特集させていただく新田さんのご先祖は上杉景勝公と共に、越後から米沢に移り住まれます。

米沢はもとは青苧(麻織物の原料)の栽培が中心で、奈良晒や越後縮の原料として織物の産地に売られていました。
財政難の改革を行ったのが上杉鷹山。家中の女性に織り方を習得させ、麻織物が作られるようになります。
雪がたくさん降る地域、家の中でできる貴重な仕事として適していたのが、機織りだったといいます。
その後、桑の栽培と養蚕が盛んになり、絹織物が中心になってまります。
江戸時代には、武士に対して裃などの生地をつくっていたこともあり、「男物の産地」ともいわれています。

明治時代に入り、それまでの武士に対する商売からの変化が求められる中、
明治17年に、初代、新田留次郎氏が機屋を創業されます。
そのご活躍は「米沢で袴といえば新田」と呼ばれるほど。
ただ、男性もののお着物の需要が少なくなる中で、3代目新田秀次氏が出会われたのが、「紅花」でした。

新田さんと、親子2代で紅花を研究されているお方との出会いがきっかけだったといいます。
そのお方は、新田さんのお嬢様の担任の先生だったというのですから驚きです。

江戸中期には紅花の全国生産量の6割が山形でつくられていたといいますが、
江戸から明治に入って、化学染料が広まっていくなかで紅花は急激に衰退していきます。
戦後はほとんど消滅していて「幻の花」とさえいわれていたといいます。
花がないので、当然染める職人もおられません。

新田さんはご夫婦で、昼間は織物をし、夜な夜な紅花の研究をされていたといいます。
自ら納得のいく色を出すため、寝る間も惜しんで染め続けてこられました。
「厳冬の深夜の作業、糸が染まるより、自分の手の方が真っ赤に晴れ上がったほど」というほど。

こうした努力が実り、昭和41年、第13回日本伝統工芸展に出品された紅花染の手紬「慕情」が入選。
それから、紅花染の美しさが全国に知られるようになっていきます。

こうした努力と手間を惜しまないものづくりへの姿勢は、5代目源太郎氏への受け継がれています。
40歳というお若い新田さん。大変熱心で意欲的な姿勢に、私は業界の後輩として、とても強く心が打たれます。
同じものを織り続けない。日々新しい挑戦をされている新田さんのお話と素晴らしいお着物や帯を是非ご覧になってくださいませ!

皆様のご来場を心からお待ちいたしております。

<参照>
・新田源太郎氏からのご説明より
・『日本の染織18 紅花染 花の生命を染めた布』 泰流社
・真壁仁『紅と藍』(1979年) 
・鶴田榮一『「魏志倭人伝」と色料(顔料・染料)-古代倭国の色料事情について』

糸くりの詩-全国伝統織物展を開催します

2020年02月23日

いつもブログをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。
ゑり善の専務取締役の亀井彬です。

朝晩の冷え込みはあるものの、日に日に春の足跡が近づいていることを実感致します。
穏やかな日差しについ、顔がほころびますね。

さて、今回は展示会のご案内になります。

3月に開催する展示会は「糸くりの詩-全国伝統織物展-」
全国各地の織物に特化した特徴ある展示会です。
この名称で弊社も長く取り組んでまいりました。

「ゑり善というと、訪問着や付下・小紋といったフォーマルなお着物しか置いていない」
と思っておられるお客様も多いようですが、実はこうした織物も扱っております。

日本という風土の特徴は、南北・東西に長く、その土地土地に特色のある気候や文化があることではないでしょうか。
着物は日常の衣服ですので、この風土の特徴の影響を大きく受けております。
加えて、今とは異なる様々な歴史的な環境によって、生み出されたものが全国の織物です。

社会が急速に便利になり、どんなところでも同じものが買えるようになったことは大きな喜びではございますが、
一方で本来残すべき、それぞれの特徴が失われつつあるような気がしてなりません。
それぞれの産地の個性があるからこそ、着物の楽しみや喜びが増えるのです。

この展示会では、全国伝統織物展として、各産地のお着物や帯をご紹介いたします。

それぞれの土地で、「糸に求めること」、「たどり着いた風合い」、「染色の方法」、「色の使い方」、「柄の表現の仕方」などが異なります。どれが1番ということでなく、それぞれの良さ・魅力を感じていただけるよう現在準備をいたしておる最中です。

是非一人でも多くの方に、日本の多様性、素晴らしさをしっていただきたい!
写真では絶対に伝わらない絹のぬくもりを感じていただける展示会を、どうか楽しみにしていてくださいませ。


<展示会詳細>
糸くりの詩 -全国伝統織物展-

糸くりの詩-全国伝統織物展-
【京都本店】
2020年3月6日(金)~8日(日) 午前10時~午後7時(最終日は午後6時まで)
京ごふくゑり善 本店にて
特集 紅花染 ※3/7日(土)・3/8日(日) 新田源太郎氏来店

【銀座店】
2020年3月12日(木)~14日(土) 午前10時~午後6時
京ごふくゑり善 銀座店にて


ゑり善所蔵のお雛飾り-ぜひ見にいらしてください!

2020年02月22日

おはようございます。ゑり善の専務取締役の亀井彬です。
いつもブログをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。

3月3日は皆さんご存じの「雛祭り」です。
女の子の健やかな成長を祈る節句の年中行事です。

昨日より本店1F和室の奥にお雛人形を飾らせていただきました。

雛人形

私の実家に残る代々引き継いできていたものですが、
実はこのように飾ることは、私の記憶がある範囲では全くしてきませんでした。

この度、皆様と一緒に楽しませていただこうと思い、お披露目することに。
古くはなっているものの素晴らしいご表情のお人形の数々。
雲竜紙に大切につつまれている人形に対面するたびに、心躍るものがございました。

雛人形

箱にある商標をみてみると「大木平蔵」と書かれております。
今も素晴らしい商いをされておられる「丸平大木人形店」さんから分けて頂いたものだと分かりました。

丸平大木人形店

さらに大変興味深いことに、丸平さんのWEBサイトには、商標の歴史がきちんと掲載されており、
当てはまるものを探してみると、「明治30年以降から明治41年」のものであることがわかりました。
今から110年ほど前のものということになります。

自社でお作りになれれたものへの保証を、時代を越えても、きちんとなさっておられる丸平さんの姿勢に強く感動致しました。

年代から考えて、私の曾祖母が生まれたときに、母方の里が用意してくださったものであると分かりました。
私から数えると5世代前のご先祖の想いに触れながら、お飾りをすることは、なんとも尊い気持ちになります。

お雛祭りあたりまで、期間限定でお飾りをしておりますので、ぜひ四条通りにお越しの際には、お立ち寄りくださいませ。

最後にゑり善の隠れた名品のご紹介ご案内になります!
お雛さんの前に置かれたお座布団。実はゑり善のオリジナルの商品になります。
その名も『お雛座布団』といいます。

お雛座布団

綿入りのころんとした可愛らしい大きさ。
絹のぬくもり。おおらかで温かみのある染味
長く使っていただく中で愛着や思い出がつまっていくお品物です!

※価格:19,800円(税込み)

お孫様への進物などに、古くからお客様にご好評いただいております。
ご家族揃って、お雛人形の前に並んてお写真を撮られるときなども、この朱色が華やかさを出してくれます。

数に限りのある商品ですので、ご興味がおありのお客様は是非早いうちにお声がけくださいませ。
皆様のご来店を心からお待ちいたしております。

参照:【丸平大木人形店】「商標の歴史」

京都の「水」と友禅の深いつながり

2020年02月16日

いつもありがとうございます。
今日は京都の街で開催される京都マラソンの日。
あいにくのお天気ではございますが、ランナーの皆様の熱気で京都の街も賑やかになる1日です。

この京都マラソンは、起伏の激しいコースながら、京都の名所を走れるとあって大変人気のある大会です。
今年の倍率は4.4倍ということで、走りたくても走れない方もおられるほど。
私も数年前に出場させていただき、改めて京都の街の美しさを感じるとても貴重な時間になった記憶がございます。

たけびしスタジアム京都からスタートし、桂川を北上、嵐山を抜けて、仁和寺があるきぬかけの路を通ります。
大徳寺の脇を抜け、賀茂川沿いを通ります。上賀茂神社を横に見ながら、五山の送り火の妙・法のふもとを。
再度、賀茂川に出てきた後は、京都御所や京都大学の付近を回りながら、ゴール地点であるみやこめっせへと向かいます。

京都マラソン

このマラソンのコースの一部にもなっている「京都の川」。
実は「友禅染」とは深いつながりがあることをご存じでしょうか。

友禅には、【蒸し・水元】と呼ばれる大切な工程がございます。
「蒸し」は、生地に加えられた染料を定着させること、またその染料に完全な発色をさせることを目的としています。
「水元(水洗い)」は蒸し工程が完了し、完全に 染着された生地を多量の水で洗い流す工程です。
生地に残った不要な染料などを洗い落とすために行われます。

かつては平安京の東半分にあたる洛中域では、伏流水が多く入り込んでいたためわずか3~4mの深さの浅い井戸によって清らかな水を簡単に手に入れることができたといいます。
そのためもあったのか、近世の染め物の中心地は西洞院四条付近に偏っていたようです。近くの「堀川水系」による水が得やすく、堀川で水洗ができるという立地のメリットが、染め物業の発展に深くつながっていました。

その後、友禅染の大量生産が可能になり、友禅染業者も増大。水洗いの水源確保が問題になります。
当時は主に「鴨川」「堀川」で水洗いされていましたが、その後各河川に広がっていきます。
川での水洗いは「友禅流し」とも呼ばれ、こうした光景は近代京都の風物詩として、広く知られるようになります。

しかし昭和46年、排水規制で川での水洗いは完全に禁止されます。
堀川は小さな川であったこともあり、生活排水で水が汚れて、早朝以外の時間では水洗いができなかったとも。
水量が多く水洗いが盛んにおこなわれた鴨川も、沿岸の料理店などから水質悪化への苦情や風致上の問題から規制が厳しくなったようです。

こうした規制が厳しくなる中で、今でも続く井戸水をモータでくみ上げる屋内水洗場を工場内に設けるようになります。
京都の街から友禅流しが姿を消したのが、この時代です。

友禅流し
桂川で友禅を洗う友禅流しの光景(昭和初期)
出典:『京の友禅史』 編集者:松木眞澄 平成4年5月16日発行

今、京都で、この蒸し・水元をされている工場が大変すくなくなっております。
水元で汚れた水はそのまま流すことができず、きれいにするためのコストも相当必要となるとのこと。

着物に携わるものとして、京都の水が生み出した友禅の美しさを感じながらも、
工業として社会に与えてきた歴史
美しいものを生み出しながら、環境への配慮を行うことの困難さ
について、理解を深めていかなけばならないと感じるこの頃です。

最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。
こうした着物にかかわる歴史についても、少しずつ学びながらお伝えしていければと思います。

<参考>
●京都における水に支えられた伝統産業の立地に関する研究

着物の悩み事-「はおりもの」の3つの種類と着用時期について

2020年02月15日

おはようございます。ゑり善の亀井彬です。
いつもブログをご覧いただきまして誠にありがとうございます。

寒さも底を過ぎ、温かく穏やかな日差しを感じるようになってまいりました。
この暖かかったり、寒かったりという季節で
悩ましいのがコートや羽織といった「はおりもの」をどうするかということ。

「コートや羽織を着る季節は?」
というご質問をいただくことがよくあるのですが、
はおりものにも、大きく分けると3種類ございます。

今日はそれぞれの種類とおおよその着用時期、誂えのポイントをご紹介させていただきます。

袷(あわせ)

【特徴】
肩裏とよばれる裏地をつけて仕立てするもの。防寒の意味合いがつよいはおりもの。
【着用時期】
基本的には11月中旬~3月頃上旬が目安。
【お誂えのポイント】
縮緬やビロードなどの絹・カシミヤやモヘアなどの毛織物も使います。肩裏の生地には、柄や色など豊富にございます。お召しになられていると見えない部分ではあるのですが、誂えならではのオシャレを楽しめます。

肩裏

<肩裏の生地:お召しいただきやすいように滑りのよい生地をつかいます。柄は大小様々ございます。裏地にこだわれるのも誂えならではのお楽しみ>

単衣(ひとえ)

【特徴】
裏地をつけないで仕立てするもの
【着用時期】
朝晩の肌寒さを感じる季節に羽織られるもの。3月から5月頃の気温が上がる頃まで、9月後半から11月頃の寒さが出てくるまでが目安です。ただし、ここ最近の気候を見ておりますと、冬でも温かい日が多く、よほどの寒さでなければ、秋から冬にかけても単衣をお召しになられる方も多いように感じます。
【お誂えのポイント】
単衣のはおりものに向く生地のオススメは、ある程度の厚みと重さのある生地であるということ。裏地がつかない分、あまり軽い生地ではペラペラしてしまい、着姿がスッキリ見えません。御召は皺になりにくく、適度な厚みもあり、使いやすい単衣のはおりものにすることができます。

薄物(うすもの)

【特徴】
絽や紗・レースなど透け感のある生地を使って、裏地をつけずに仕立てするもの。「ちり除け」とも呼ばれる。黄砂や花粉などから大切なお着物や帯を守る効果がございます。
【着用時期】
5月の連休前後から9月上旬の暑さが残る期間。年によっては、4月から夏のような暑さの日もございますので、早めに来ておられるかたもよくお見掛けします。
【お誂えのポイント】
薄物ならではの、透け感がとっても印象的。夏らしい明るい色(空色・若菜色・菜の花色など)はもちろん、黒など濃い地色もよく映えます。ご希望の色味に染め上げることも可能ですので、あなただけの色味にすることができます。お好みにもよりますが、コートや羽織の丈は短めにされると、軽やかな雰囲気が出せます。

羽尺
左:薄物のコート生地 着物とコートの色の重なりが楽しめます

と、ここまでご紹介してまいりましたが、はおりものの衣替えは、お着物の衣替えよりは、決まりごとが少ないもの。
ある程度の着用時期を知っておいていただいたうえで、その日の気候やご自身の体感でお選びいただくのが一番です!

季節の変わり目は、体調を崩しやすいもの。その日の気温や天候を見ながら、温度調整してお着物をお楽しみくださいませ。