《西陣織》山口伊太郎

源氏物語錦織絵巻
山口伊太郎氏は、織物が織られる前に意匠、素材、織組織などすべてを考慮し、多くの工程と多くの職人を統括する、いわばプロデューサーです。
明治期の西陣では、フランスからジャカード機を導入することで、それまでの技術に加えて自在な織文様が可能となり、公家や武家に代わり新たな購買層となった新興財閥の求めにかなう、意匠を凝らした織を生み出していきます。伊太郎氏は、その変革を目の当たりにし、第二次世界大戦前から戦後にかけての西陣を作り上げ、新しいものを作り続けてきました。
70歳を迎えた頃、生業としての織物製作を離れ、西陣織の技術のすべてを駆使し、期限を設けず、後世に伝えるべき最高の作品を作りたいとの思いから、「源氏物語錦織絵巻」の制作を開始します。その完成間近、第四巻の段取りを見届け105歳の長寿を全うされました。
「美しいもの」を作り続けた伊太郎氏の精神は受け継がれ、現在もすばらしい帯が製作されています。

源氏物語錦織絵巻とは

西陣のもつ数々の高度な技術を継承し、発展させるため、伊太郎氏が選んだ題材は、絵巻物の最高峰である国宝「源氏物語絵巻」でした。長い歳月の間に退色し、剥落した絵巻を復元するのではなく、織だからこそできる立体感と質感の表現を目指し制作されました。
通常の帯の数十倍にも及ぶ膨大な紋紙の保管問題はコンピューターをいち早く導入することで解決し、のちにその開発は西陣全体の技術革新をもたらしました。また、時を経ると黒ずむ銀箔に代わり、白く輝くプラチナ箔が開発されるなど、制作の過程で新しい素材や織技が創造されました。
人生80年として残りの10年で完成させるつもりでしたが、伊太郎氏の止むことのない追求心の結果、37年の歳月を費やし、現存する19場面の詞書と絵が全四巻の織物として完成しました。
「源氏物語錦織絵巻」の同柄四巻は、ジャカード機の伝来に感謝を込めて、パリ・ルーヴル美術館の東洋部の役割を果たすギメ東洋美術館に寄贈されています。

山口伊太郎 略歴
1901年(明治34年) 京都生まれ
1920年(大正9年) 西陣織物製造業「山口織物所」開業
1954年(昭和29年) 紫紘株式会社創立
1968年(昭和43年) 黄綬褒章受章
1970年(昭和45年) 「源氏物語錦織絵巻」制作開始
1973年(昭和48年) 勲五等瑞宝章受章
1975年(昭和50年) ポーラ伝統文化振興財団より伝統文化ポーラ賞特賞受賞
1986年(昭和61年) 「源氏物語錦織絵巻」第一巻完成
1990年(平成2年) 「源氏物語錦織絵巻」第二巻完成
1995年(平成7年) フランス芸術文化勲章オフィシエ受章
2001年(平成13年) 京都市芸術功労賞受賞
「源氏物語錦織絵巻」第三巻完成
2006年(平成18年) 京都府文化賞特別功労賞受賞
2007年(平成19年) 第四巻の段取りを見届け逝去(享年105歳)
2008年(平成20年) 「源氏物語錦織絵巻」第四巻完成